「このデータを分析してもらえる?」
エライ人から、このような依頼を受けて、張り切って分析を進めたものの、報告したら……
「思っていたのと違う」
なんて言われた経験はありませんか。
データ分析の失敗の多くは、実は分析スキルの問題ではなく、依頼者との認識のずれから生まれています。
今回は、曖昧な分析依頼を受けた際に、本当に必要な分析を見極めるための5つの質問をご紹介します。
これらの質問を活用することで、手戻りを減らし、依頼者が本当に欲しかった成果を届けることができるようになるかもしれません。
Contents
- よくある曖昧な依頼パターンと落とし穴
- 典型的な曖昧依頼の3パターン
- 曖昧な依頼が生む典型的な失敗
- 依頼の背景を理解するための基本質問
- 質問1:「なぜ今このタイミングでこの分析が必要なのですか?」
- 質問2:「この分析結果を最終的に誰が見て、どのように活用されますか?」
- ビジネス課題を具体化する深掘り質問
- 質問3:「理想的な分析結果のイメージはありますか? 仮説でも構いません」
- 質問4:「分析結果を受けて、変更や改善が可能なアクションは何ですか?」
- スコープを明確にする実務的な確認事項
- 質問5:「分析の対象範囲と必要な粒度を教えてください」
- 納期とアウトプット形式の擦り合わせ
- 依頼者を巻き込む継続的なコミュニケーション
- キックオフミーティングで認識を揃える
- 早めの方向性確認で手戻りを防ぐ
- 「一緒に考える」スタンスの重要性
- 今回のまとめ
よくある曖昧な依頼パターンと落とし穴
典型的な曖昧依頼の3パターン
データ分析の現場でよく遭遇する曖昧な依頼には、いくつかの典型的なパターンがあります。
まず最も多いのが「何か面白いことを見つけて」という探索型の依頼です。
依頼者自身も何を知りたいのかが明確でないため、分析者は広大なデータの海の中で、何を「面白い」と判断すべきか途方に暮れてしまいます。
次によくあるのが「とりあえずこのデータを分析して」という丸投げ型の依頼です。
データは渡されるものの、そのデータから何を読み取りたいのか、どんな課題を解決したいのかが不明確なため、分析の方向性が定まりません。
そして三つ目が「競合と比較して」といった基準不明型の依頼です。
何を基準に比較すべきか、どの期間で比較すべきか、どの競合を対象とすべきかなど、比較の軸が明確でないため、的外れな分析になりがちです。
曖昧な依頼が生む典型的な失敗
こうした曖昧な依頼を、そのまま受けて分析を進めてしまうと、様々な問題が発生します。
最も多いのは、分析結果が「興味深いけれど、アクションにつながらない」というケースです。
例えば、売上データから季節変動を発見しても、それが既に現場で認識されている事実だったり、対応策を打つには遅すぎる情報だったりすることがあります。
また、分析の粒度が依頼者の期待と合わないという問題もよく起こります。
経営層向けの報告なのに細かすぎる分析をしてしまったり、逆に現場の改善活動に使うには粗すぎる分析をしてしまったりといった具合です。
こうしたミスマッチは、分析にかけた時間を無駄にするだけでなく、依頼者との信頼関係にも影響を与えかねません。
依頼の背景を理解するための基本質問
質問1:「なぜ今このタイミングでこの分析が必要なのですか?」
最初に確認すべき最も重要な質問がこれです。
分析依頼の背景には必ず何かしらのきっかけや理由があります。
例えば、売上が予想を下回った、競合が新しい施策を打ち出した、経営会議で指摘を受けた、といった具体的な出来事があるはずです。
このタイミングの理由を理解することで、分析の緊急度や重要度が明確になります。
また、「なぜ今なのか」を掘り下げることで、依頼者が本当に解決したい課題が見えてきます。
例えば「来月の経営会議で報告する必要がある」という回答であれば、経営層が理解しやすい形での分析が求められていることがわかります。
質問2:「この分析結果を最終的に誰が見て、どのように活用されますか?」
分析結果の受け手と用途を明確にすることは、適切な分析レベルと表現方法を決める上で欠かせません。
経営層が戦略判断に使うのか、現場のマネージャーが日々のオペレーション改善に使うのか、営業チームが顧客提案に使うのかによって、必要な分析の深さや見せ方は大きく変わってきます。
この質問をすることで、アウトプットの形式も自然と決まってきます。
経営層向けならエグゼクティブサマリーを重視し、現場向けなら具体的なアクションにつながる詳細な分析を、営業向けなら顧客に見せやすいビジュアルを重視する、といった判断ができるようになります。
ビジネス課題を具体化する深掘り質問
質問3:「理想的な分析結果のイメージはありますか? 仮説でも構いません」
多くの依頼者は、明確に言語化できていなくても、何かしらの仮説や期待を持っています。
「おそらく〇〇が原因だと思うけど、データで確認したい」
「△△という傾向があるはずだから、それを証明したい」
……といった思いを引き出すことが重要です。
この質問をすることで、依頼者の頭の中にある仮説を共有してもらえます。
その仮説が正しいかどうかを検証することが分析の軸になりますし、仮に仮説と異なる結果が出た場合も、それ自体が価値ある発見となります。
また、複数の仮説がある場合は、優先順位をつけて分析を進めることもできます。
質問4:「分析結果を受けて、変更や改善が可能なアクションは何ですか?」
データ分析の最終的な目的は、何かしらの意思決定やアクションにつなげることです。
しかし、分析結果が出ても、実際には何も変えられない、変える権限がない、というケースは意外と多いものです。
事前にアクション可能な範囲を確認しておくことで、実用的な分析に集中できます。
例えば、価格戦略の分析をする場合、価格変更の権限があるのか、変更可能な価格帯はどの程度か、実施時期に制約はあるのか、といった実務的な制約を確認します。
こうした制約を踏まえた上で分析を設計することで、机上の空論ではない、実行可能な提案につながる分析ができます。
スコープを明確にする実務的な確認事項
質問5:「分析の対象範囲と必要な粒度を教えてください」
最後の質問は、分析の具体的なスコープに関するものです。
対象となるデータの期間、分析する単位(全社/部門別/商品別など)、必要な更新頻度など、実務的な要件を確認します。
この段階で曖昧さを残すと、後々「もっと細かく見たかった」「そこまで詳しくなくてよかった」といった手戻りが発生します。
特に重要なのは、分析の粒度です。
月次データで十分なのか日次データが必要なのか、全体傾向が分かればよいのか個別のセグメントまで深掘りが必要なのか、といった点を明確にします。
また、比較対象がある場合は、その基準も具体的に決めておく必要があります。
前年同期比なのか、計画比なのか、業界平均との比較なのか、といった基準を事前に合意しておくことが大切です。
納期とアウトプット形式の擦り合わせ
分析のスコープが決まったら、現実的な納期とアウトプットの形式を擦り合わせます。
依頼者が期待する納期と、分析に必要な時間にギャップがある場合は、この段階で調整が必要です。
場合によっては、最初は簡易的な分析で方向性を確認し、その後詳細な分析を行うという段階的なアプローチを提案することも有効です。
アウトプットの形式についても、パワーポイントでのプレゼン資料なのか、エクセルでの詳細データなのか、BIツールでのダッシュボードなのか、といった点を確認します。
また、中間報告の要否やタイミングも決めておくと、依頼者も安心しますし、方向性のずれを早期に修正することができます。
依頼者を巻き込む継続的なコミュニケーション
キックオフミーティングで認識を揃える
5つの質問で得た情報を基に、分析を開始する前に、短時間でもオンラインでもいいので、キックオフミーティングを設定することをお勧めします。
このミーティングでは、ここまでに確認した内容を整理し、分析の目的、スコープ、スケジュール、成果物のイメージを文書化して共有します。
口頭での確認だけでは、後から「言った、言わない」の問題が生じる可能性があるため、簡単でも良いので文書に残しておくことが重要です。
また、このタイミングで分析に必要なデータの所在や入手方法、データの品質に関する懸念事項なども共有しておきます。
データに欠損や異常値が多い場合、その対処方針も事前に相談しておくと、後々のトラブルを避けることができます。
早めの方向性確認で手戻りを防ぐ
分析作業を進める中で、早い段階で簡単な集計結果や初期的な発見を共有することは、最終的な成功につながる重要なステップです。
完璧な分析結果を作ってから見せるのではなく……
「このような方向で分析を進めていますが、イメージと合っていますか?」
……という確認を早めに行うことで、大きな手戻りを防ぐことができます。
この中間共有では、依頼者から追加の要望や、当初想定していなかった観点が出てくることもあります。
それらを早期にキャッチして分析に反映することで、最終的により価値の高い成果物を作ることができます。
また、依頼者も分析の進捗が見えることで安心感を持ち、信頼関係の構築にもつながります。
「一緒に考える」スタンスの重要性
データ分析は、分析者が一方的に作業をして結果を報告する、という一方通行のプロセスではありません。
依頼者と一緒に仮説を立て、データを見ながら議論し、解釈を深めていくという協働作業として捉えることが重要です。
分析結果を見ながら……
「この数字をどう解釈しますか?」
「現場の実感と合っていますか?」
……といった問いかけをすることで、依頼者の持つ業務知識や経験と、分析者の持つデータ分析スキルを組み合わせた、より深い洞察を得ることができます。
このような協働のプロセスを経ることで、分析結果に対する依頼者の納得感も高まり、実際のアクションにもつながりやすくなります。
今回のまとめ
データ分析において、最初の要件定義に時間をかけることを無駄だと感じる方もいるかもしれません。
しかし、曖昧な依頼のまま分析を始めてしまい、後から大幅な手戻りが発生したり、せっかくの分析結果が活用されなかったりすることの方が、はるかに大きな時間の無駄となります。
今回ご紹介した5つの質問は、決して複雑なものではありませんが、これらを丁寧に確認することで、分析の成功確率は格段に上がります。
依頼を受けたらすぐに分析を始めるのではなく、まず立ち止まって、依頼者が本当に求めているものは何かを理解することから始めましょう。
その投資した時間は、必ず質の高い分析結果として返ってくるはずです。