第474話|クーポンを出すほど利益が減る?
化粧品EC企業がMMMで発見した「販促の落とし穴」と最適解

第474話|クーポンを出すほど利益が減る?化粧品EC企業がMMMで発見した「販促の落とし穴」と最適解

EC事業を運営されている方であれば、こんな経験はないでしょうか。

「売上が足りないからクーポンを出そう」と施策を打ち、確かに売上は上がった。

しかし月末に収支を確認すると、利益はほとんど増えていない。

むしろ減っているかもしれない。

それでも「クーポンを出さないともっと売れなかったはずだ」と自分を納得させ、翌月もまたクーポンを出す。

気づけば、クーポンなしでは売れない体質になってしまっている……。

今回は、化粧品の定期通販を運営するE社が、マーケティングミックスモデリング(MMM)を導入し、クーポン・広告・メルマガという3つの販促施策の「本当の効果」を可視化した事例をご紹介します。

分析の結果、クーポンが思わぬ副作用を引き起こしていたこと、そして各施策には明確な「役割分担」があることが明らかになりました。

クーポン費用を15%削減しながらも新規獲得を維持し、継続率を8ポイント改善するに至った取り組みの全容をお伝えします。

化粧品ECが陥った「販促のジレンマ」

 広告費は増えているのにLTVが上がらない

E社は、オリジナルのスキンケア化粧品を定期通販で販売するD2C企業です。

創業から7年が経ち、会員数は10万人を超えるまでに成長しました。

主力商品は月額4,980円のスキンケアセットで、定期購入の顧客が売上の大部分を支えています。

マーケティング責任者のF氏は、ここ2年ほど、ある違和感を抱えていました。

広告費を年々増やしているにもかかわらず、顧客一人あたりの生涯価値(LTV)が伸びなくなっていたのです。

新規顧客の獲得コスト(CPA)は上昇傾向にありました。

競合の参入が相次ぎ、デジタル広告の入札競争が激化していたためです。

CPAの上昇を吸収するためには、獲得した顧客により長く継続してもらい、LTVを高める必要があります。

しかし現実には、定期購入の継続率は横ばいか、むしろ微減傾向にありました。

F氏は数字を見ながら首をかしげていました。

広告で新規顧客を獲得し、良い商品を届け、メルマガでフォローもしている。

やるべきことはやっているはずなのに、なぜLTVが改善しないのか。

その原因が特定できずにいたのです。

 クーポン乱発がもたらした「利益率の悪化」

状況を打開しようと、E社が力を入れていたのがクーポン施策でした。

  •  新規顧客向けの「初回50%オフ」クーポン
  • 3ヶ月以上購入のない休眠顧客向けの「復帰20%オフ」クーポン
  • 会員全員に配布する誕生日クーポン
  • 季節の変わり目のキャンペーンクーポン

気づけば、何らかのクーポンが常に発行されている状態になっていました。

クーポンを出せば、確かに売上は上がります。

休眠顧客が戻ってきたり、追加購入が増えたりする効果は目に見えてありました。

しかしその一方で、利益率は着実に悪化していました。

売上が10%増えても、クーポンによる値引きで利益は5%しか増えない、あるいはむしろ減っている、という状況が続いていたのです。

F氏には、もう一つ気がかりなことがありました。

クーポンを頻繁に出すようになってから、「通常価格で買うのがもったいない」という顧客心理が生まれているのではないか、という懸念です。

実際、カスタマーサポートには「次のクーポンはいつ出ますか?」という問い合わせが増えていました。

クーポンがなければ買わない、クーポンを待つ、という行動パターンが定着しつつあるのではないか。

しかしそれを証明するデータはありませんでした。

 施策の効果が「混ざって」見えない問題

E社では、広告、クーポン、メルマガという3つの販促施策を日常的に実施していました。

問題は、それぞれの効果を分離して把握することが極めて難しかったことです。

たとえば、ある週に売上が前週比で20%増加したとします。

その週には、Instagram広告を増やし、週末に全員向けクーポンを配布し、水曜日に新商品紹介のメルマガを配信していました。

売上増加は広告の効果なのか、クーポンの効果なのか、メルマガの効果なのか、それぞれがどの程度寄与したのかを切り分けることができません。

さらに厄介だったのは、定期通販特有の「周期性」の存在です。

E社の顧客の多くは定期購入者であり、契約に基づいて毎月商品が届きます。

この「予定された購入」による売上が全体の大部分を占めているため、販促施策の効果が相対的に小さく見えてしまいます。

売上全体を見ていても、施策の効果が周期性に埋もれて判別できないのです。

F氏は、この「何がどれだけ効いているかわからない」状態に限界を感じていました。

手探りで施策を打ち続けても、最適解にたどり着ける気がしない。もっと科学的に、データに基づいて判断できる方法はないものか。

そう考えていたときに出会ったのが、マーケティングミックスモデリング(MMM)という分析手法でした。

定期通販ECにMMMを適用する工夫

 MMMとは何か

マーケティングミックスモデリング(MMM)とは、売上などの成果指標に対して、広告、販促、季節性、外部環境といった複数の要因がそれぞれどの程度寄与しているかを、統計的に分解する分析手法です。

わかりやすく言えば、「今月の売上1,000万円」という結果を、「広告効果で200万円、クーポン効果で150万円、季節要因で100万円、ベースライン(何もしなくても発生する売上)で550万円」といった形で内訳に分解できます。

これにより、どの施策が本当に効いているのか、どこにリソースを集中すべきかが見えてくるのです。

MMMはもともと、消費財メーカーがテレビCMの効果を測定するために発展してきた手法です。

しかし近年では、デジタル広告やEC事業にも応用が広がっています。

複数の施策を同時に実施しており、それぞれの効果を切り分けたいというニーズがある場面であれば、業種を問わず活用できる手法なのです。

 定期通販特有の「周期性」をどう扱うか

E社のような定期通販ECにMMMを適用する際、最大の課題となるのが既存顧客の購入周期性をどう扱うかという点です。

定期購入の顧客は、契約に基づいて毎月あるいは隔月で商品を受け取ります。

この購入は販促施策とは無関係に発生する「予定された売上」であり、そのままモデルに含めると、施策の効果が見えにくくなってしまいます。

たとえるなら、大きな波の上に小さな波が乗っているような状態で、小さな波(施策効果)を観測するには工夫が必要なのです。

E社のケースでは、この問題に対処するために、売上を3つの要素に分解するアプローチを採用しました。

1つ目は「新規顧客からの売上」、2つ目は「既存顧客の定期購入売上」、3つ目は「既存顧客の追加購入売上」です。

それぞれを別のモデルで分析することで、販促施策が「新規獲得」「定期継続」「追加購入促進」のどこに効いているかを分離して把握できるようになりました。

この分解は、分析の精度を高めるだけでなく、施策の目的を明確にするうえでも有効でした。

「このクーポンは新規獲得のため」「このメルマガは継続率向上のため」というように、施策ごとに狙う成果指標を定義できるようになったのです。

 分析に使用したデータの全体像

E社のMMMでは、過去2年間分の週次データを使用して分析を行いました。

成果指標として設定したのは3つです。

  • 新規顧客の獲得数
  • 既存顧客の定期継続率(翌月も定期購入を継続した割合)
  • 既存顧客の追加購入金額(定期購入とは別に購入した金額)

これらを別々のモデルで分析することで、各施策がどの成果に効いているかを識別します。

説明変数として設定したのは、まず広告関連のデータです。

デジタル広告はリスティング広告、ディスプレイ広告、SNS広告(Instagram、Facebook)に分類し、それぞれの週次出稿金額、インプレッション数、クリック数を記録しました。

次にクーポン関連のデータです。

発行したクーポンを「新規顧客向け」「既存顧客向け」「全員向け」に分類し、それぞれの割引率、発行枚数、利用件数を週次で集計しました。

メルマガ関連のデータとしては、週次の配信回数、配信対象者数、開封率、クリック率を使用しました。

さらに、メルマガの内容を「商品紹介・販促系」と「スキンケア知識・教育系」に分類し、それぞれの効果を比較できるようにしました。

外部環境の要因としては、季節性フラグ(年末年始、ゴールデンウィーク、夏季休暇、年度末など)、競合他社の大型キャンペーン実施時期、そして業界全体の検索トレンド(Googleトレンドのデータ)を組み込みました。

MMMで暴かれた「不都合な真実」

 クーポンは新規には効くが、既存の「買い控え」を誘発していた

MMMの分析結果は、F氏の漠然とした懸念を、明確なデータで裏付けるものでした。

クーポン施策の効果を新規顧客と既存顧客に分けて見ると、まったく異なるパターンが浮かび上がったのです。

まず新規顧客の獲得に対しては、クーポンは確かに効果を発揮していました。

「初回50%オフ」のクーポンが存在することで、広告からの購入転換率(コンバージョンレート)が統計的に有意に高まっていたのです。

これは直感的にも理解しやすい結果です。

初めて購入する商品には心理的なハードルがあり、割引があることで「試してみようか」という気持ちが後押しされます。

しかし、既存顧客に対する効果は、予想外のものでした。

クーポンを頻繁に発行している時期には、既存顧客の「追加購入金額」が減少する傾向が統計的に確認されたのです。

定期購入とは別に、新商品や限定品を追加で購入する行動が、クーポン発行時期に抑制されていました。

この結果は、一見すると矛盾しているように思えます。

クーポンを出せば買いやすくなるはずなのに、なぜ購入が減るのか。その解釈として最も有力なのは、「クーポン待ち」の心理です。

顧客は学習します。

「この会社は頻繁にクーポンを出す」ということを学んだ顧客は、「今買わなくても、どうせまたクーポンが出るだろう」と考えるようになります。

定価で買うのが馬鹿らしくなり、クーポンが出るまで購入を先送りするのです。

結果として、クーポンがない時期の購入が減り、クーポンがある時期に集中する。全体の購入金額は変わらないか、むしろ減少するという現象が起きていたのです。

F氏がカスタマーサポートで感じていた「次のクーポンはいつですか?」という問い合わせの増加は、まさにこの現象の表れでした。

クーポンは売上を「増やしている」のではなく、売上を「前借りしている」だけだったのかもしれない。MMMの結果は、その仮説を裏付けるものでした。

 メルマガは「継続率」に効いていた

メルマガの効果についても、興味深い発見がありました。

新規顧客の獲得に対しては、メルマガはほとんど効果を示していませんでした。

これは当然といえば当然です。メルマガは既存の会員に対して配信するものであり、まだ会員になっていない見込み客には届きません。

注目すべきは、既存顧客の「定期継続率」に対する効果でした。

メルマガの開封率が高い週は、その週に定期購入の更新タイミングを迎えた顧客の継続率が有意に高かったのです。メルマガを開封し、内容を読んでいる顧客ほど、定期購入を継続する傾向があるということが、データで示されました。

さらに分析を深めると、メルマガの内容によって効果が大きく異なることがわかりました。

「今週の新商品」「期間限定セール」といった販促系のメルマガと、「正しい洗顔の方法」「季節の変わり目のスキンケア」といった教育系のメルマガを比較したところ、継続率への寄与は教育系メルマガの方が圧倒的に大きかったのです。

この結果は、メルマガの役割についての重要な示唆を与えてくれました。

顧客が定期購入を継続するかどうかを決めるのは、「お得かどうか」ではなく、「この商品・このブランドへの信頼と愛着」なのです。

教育系コンテンツは、顧客に「この会社は自分のことを考えてくれている」「役立つ情報を提供してくれる」という印象を与え、ブランドへのロイヤルティを高めます。

一方、販促系コンテンツばかりでは、「また売り込みか」という印象になりかねません。

メルマガは「売り込みの場」ではなく、「顧客との関係を深め、商品への愛着を育てる場」として位置づけるべきだ。

MMMの結果は、そのことを明確に示していました。

 広告とメルマガには「交互作用」があった

今回のMMM分析で、技術的に最も興味深い発見となったのが、広告とメルマガの「交互作用」でした。

交互作用とは、2つの施策を同時に実施したときに、それぞれを単独で実施した場合の効果の合計とは異なる効果が生じる現象を指します。

具体的に言えば、広告の効果が100、メルマガの効果が50だとしたとき、両方を同時に実施すると効果が150ではなく180になる(正の交互作用)、あるいは120にしかならない(負の交互作用)といった現象です。

E社のデータを分析した結果、広告とメルマガの間には正の交互作用が確認されました。

広告出稿量が多い週にメルマガを配信すると、新規獲得数と既存顧客の追加購入金額の両方が、それぞれを単独で実施した場合の期待値を上回っていたのです。

この相乗効果のメカニズムとして考えられるのは、「複数接点による想起強化」です。人は、同じ情報に複数の経路で触れると、記憶に定着しやすくなります。

InstagramやGoogleで広告を目にした後、メールボックスでも同じブランドからのメッセージを受け取ることで、「あ、さっき見たあのブランドだ」という認知が強化され、購買意欲が高まるという流れです。

逆に言えば、広告を見ていない状態でメルマガだけを受け取っても、それほど行動には結びつきにくい。また、メルマガを読んでいない顧客に広告だけを見せても、効果は限定的かもしれない。

広告とメルマガは、「連動させてこそ真価を発揮する」施策だったのです。

この発見は、マーケティング組織のあり方にも示唆を与えるものでした。

多くの企業では、広告チーム(ペイドメディア担当)とCRMチーム(メルマガ担当)が別々に活動しており、施策のタイミングが連動していないことが少なくありません。

E社もそうでした。しかしMMMの結果は、両者を連動させることで大きな相乗効果が得られることを示しています。

MMMに基づいた施策の再設計

 クーポン戦略の見直し

MMMの分析結果を受けて、E社はクーポン戦略を根本から見直しました。

基本方針は明確です。

「新規顧客向けクーポンは維持する。既存顧客向けクーポンは大幅に削減する」というものでした。

新規顧客向けの初回割引クーポンは、分析結果で効果が確認されたため継続することにしました。

ただし、割引率については検討の余地がありました。「初回50%オフ」という大幅な割引は、確かに転換率を高めますが、同時に「安いから試しに買ってみた」という動機の顧客を集めてしまうリスクがあります。

そうした顧客は価格に敏感であり、定価に戻った2回目以降に離脱しやすい傾向があります。

そこでE社では、初回割引率を50%から30%に引き下げる実験を行いました。

結果として、転換率はやや低下したものの、2回目以降の継続率は向上し、LTVベースで見るとむしろ改善する傾向が見られました。

「適度な割引」で獲得した顧客の方が、長期的な価値が高いという仮説が裏付けられた形です。

既存顧客向けクーポンについては、大幅な削減を実施しました。

従来は毎月のように何らかのクーポンを配布していましたが、これを「誕生日クーポン」「会員周年記念クーポン」など、特別な機会に限定する方針に転換しました。

クーポンを「いつでももらえるもの」から「特別なときにもらえるもの」へと位置づけを変えることで、クーポン待ちの心理を抑制する狙いがあります。

この変更には社内から懸念の声も上がりました。「クーポンを減らしたら売上が落ちるのではないか」という不安です。

F氏はMMMの分析結果を示しながら、「クーポンは売上を増やしているのではなく、買い控えを誘発している可能性がある。クーポンを減らしても、その分が通常購入に回るなら、売上は維持できるはずだ」と説明しました。

 メルマガの役割再定義

メルマガについては、配信内容の抜本的な見直しを行いました。

従来のE社のメルマガは、週2回の配信でした。

内容は、1回目が新商品や限定品の紹介、2回目がクーポンやセールの告知という構成です。つまり、2回とも「販促系」のコンテンツでした。

MMMの結果を踏まえ、この構成を大きく変更しました。

週2回の配信のうち、少なくとも1回は「教育系コンテンツ」を中心とした内容にする。

スキンケアの基礎知識、季節に合わせた肌ケアのコツ、成分の解説、よくある肌トラブルへの対処法など、顧客にとって「読む価値がある」「役に立つ」と感じてもらえるコンテンツを提供する方針です。

この変更は、メルマガの開封率向上にもつながりました。

販促メールばかり送っていると、顧客は「またセールの案内か」と思って開封しなくなります。しかし、役立つ情報が含まれていると期待できれば、開封する動機が生まれます。

開封率が上がれば、MMMで確認された「メルマガ開封と継続率の正の相関」が発揮され、継続率の向上につながるという好循環が期待できます。

販促情報は完全になくすのではなく、頻度を下げて「ここぞ」というタイミングに集中させることにしました。

新商品の発売時、季節の変わり目のキャンペーン時など、本当に伝えたい情報があるときにだけ販促コンテンツを送る。

そうすることで、販促メールの「特別感」も高まります。

 広告とメルマガの連動

交互作用の発見を活かすため、広告とメルマガの配信タイミングを意図的に連動させる運用を開始しました。

具体的には、広告出稿を強化する週(新商品発売時、季節キャンペーン時など)には、メルマガも同じタイミングで配信します。

広告で新商品やキャンペーンを訴求すると同時に、メルマガでも関連する内容を届けることで、「複数接点による想起強化」の効果を最大化する狙いです。

逆に、広告出稿を抑える通常週には、メルマガは教育系コンテンツを中心にします。

MMMの結果から、広告との連動がない状態で販促メルマガを送っても効果が限定的であることがわかっています。それならば、通常週は「関係構築」に注力し、広告強化週に「販促」を集中させる方が効率的です。

この「同時投下」戦略を実現するために、組織面での変更も行いました。

従来、広告チームとCRMチーム(メルマガ担当)は別々に施策を計画していましたが、週次のマーケティング会議で両チームが施策カレンダーを共有し、タイミングを合わせる体制を構築しました。

  • 今週は広告を強化するので、メルマガも販促寄りの内容で
  • 来週は広告を抑えるので、メルマガは教育コンテンツで

このような連携が日常的に行われるようになりました。

成果とLTV改善への道筋

 クーポン費用15%削減、利益率の改善

施策の再設計から6ヶ月が経過した時点で、成果が数字に表れ始めました。

まず、クーポンにかかる費用(割引による売上減少分と、クーポン運用にかかる工数)は、前年同期比で15%削減されました。

既存顧客向けクーポンを大幅に減らした効果です。

当初懸念されていた「クーポンを減らすと売上が落ちるのではないか」という心配は、杞憂に終わりました。

確かに、クーポン発行時期の売上は減少しましたが、その分、クーポンがない時期の売上が増加したのです。

顧客が「クーポンを待つ」行動を取らなくなり、必要なときに通常価格で購入するようになった結果と考えられます。

売上総額はほぼ横ばいを維持しながら、クーポン費用が削減されたことで、利益率は明確に改善しました。

 継続率+8ポイントの改善

より大きなインパクトがあったのは、定期購入の継続率です。

メルマガの内容を教育系コンテンツ中心にシフトしたこと、そして既存顧客向けクーポンの乱発を止めたことが功を奏し、定期購入の継続率は前年同期比で8ポイント向上しました。

具体的には、2回目継続率が72%から78%に、6ヶ月継続率が45%から51%に改善しています。

継続率の改善は、LTVに直結します。

月額4,980円の定期購入で継続率が8ポイント改善すれば、顧客一人あたりの平均購入回数が増え、LTVは数千円単位で向上します。

新規獲得コスト(CPA)が上昇傾向にある中で、LTVが向上すれば、マーケティングの収益性が改善します。

F氏が当初感じていた「広告費を増やしてもLTVが上がらない」という違和感は、ようやく解消されました。

問題は広告ではなく、クーポンとメルマガの使い方にあったのです。

 新規獲得は維持、広告とメルマガの相乗効果

新規顧客の獲得数についても、前年同期比でほぼ同水準を維持しました。

初回クーポンの割引率を50%から30%に引き下げたことで、広告からの転換率はやや低下しました。

しかし、広告とメルマガの連動強化による相乗効果が、その低下を補いました。

特に、既存顧客からの紹介による新規獲得が増加したことは、注目に値します。

この紹介増加の背景には、既存顧客の満足度向上があると考えられます。

教育系コンテンツを充実させたメルマガにより、顧客は「この会社は信頼できる」という印象を強め、友人や家族に勧めやすくなったのではないか。

クーポン乱発をやめたことで、「安売りばかりの会社」というイメージから脱却できたことも影響しているかもしれません。

MMMでは直接測定していませんでしたが、「顧客満足度の向上が紹介による新規獲得を増やす」という経路の存在が示唆されました。

 施策の「役割分担」が明確になった

数値的な成果に加えて、F氏が強調するのは、「施策の役割分担が明確になった」ことの価値です。

MMMの分析を通じて、各施策には明確な「得意分野」があることがわかりました。

広告は「認知を広げ、新規顧客を獲得する」ことが得意です。

クーポンは「新規顧客の最初の一歩を後押しする」ことに限定して使うべきであり、既存顧客に対しては逆効果になりうる。

メルマガは「既存顧客との関係を深め、継続率を高める」ことが本来の役割であり、売り込みの場としては機能しにくい。

そして、広告とメルマガは連動させることで相乗効果を発揮する。

この「役割分担」が明確になったことで、施策の立案や評価がしやすくなりました。

従来は「売上が足りないからクーポンを出そう」「数字が悪いから広告を増やそう」という場当たり的な対応になりがちでした。

MMM導入後は、次のように課題に応じた適切な打ち手を選べるようになったのです。

  • 新規獲得が課題なら広告を強化する
  • 継続率が課題ならメルマガの内容を見直す
  • 広告とメルマガのタイミングは合っているか確認する

今回のまとめ

今回は、「クーポンを出すほど利益が減る? 化粧品EC企業がMMMで発見した『販促の落とし穴』と最適解」というお話しをしました。

紹介した事例から得られる最も重要な教訓は、「施策の効果は、表面的な数字だけでは見えない」ということです。

クーポンを出せば売上が上がる。これは事実です。

しかしその裏で、顧客の買い控えが誘発され、本来あったはずの通常価格での購入が失われているかもしれない。

メルマガで販促情報を送れば、短期的には購入が増えるかもしれない。しかし、販促ばかりのメルマガは開封されなくなり、顧客との関係が希薄になっていくかもしれない。

こうした「見えない効果」を可視化するのが、MMMの力です。

複数の施策が複雑に絡み合う中で、「何がどれだけ効いているか」を分離し、さらには「施策同士の相乗効果」まで検出する。

そこから得られる知見は、直感や経験だけでは得られないものです。

EC事業、特に定期通販やD2Cモデルにおいて、クーポン依存やLTVの頭打ちは多くの企業が直面する課題です。

その解決の糸口は、「何がどれだけ効いているか」を正しく把握することから始まります。MMMは、その強力な武器となるでしょう。