第439話|RPAの次に来るAI×プロセスマイニングで描く「ハイパーオートメーション」

第439話|RPAの次に来るAI×プロセスマイニングで描く「ハイパーオートメーション」

近年、企業のデジタル化における注目テーマは「作業の自動化」から「ビジネスプロセス全体の最適化」へと変わりつつあります。

従来のRPA(Robotic Process Automation)は、定型的な画面操作の自動化には優れている一方で、例外処理や複雑な判断に対応しきれないケースが多々ありました。

その結果、限定的な領域では効率化できても、組織全体の競争力を大きく高めるまでには至らない、いわゆる「自動化の限界」が浮き彫りになっています。

そこで注目されるのが、AIとプロセスマイニングを組み合わせ、企業内の業務プロセスを継続的に改善し続けるハイパーオートメーションというアプローチです。

ということで今回は、「RPAの次に来るAI×プロセスマイニングで描く『ハイパーオートメーション』」というお話しをします。

ハイパーオートメーションとは何か

ハイパーオートメーションは、2019年にガートナー社が提唱した「自律的プロセス改善」を実現するコンセプトです。

ステップ 目的 アクション 成果
1. プロセスの発見 業務の実態を正確に把握し、自動化・改善の候補となるプロセスを洗い出す
  • ERP・CRMなどのシステムログをプロセスマイニングツールで解析
  • 担当者ヒアリングでは見えない例外や迂回ルートを可視化
  • As-Isフローを客観的に分析
  • ボトルネックを特定し、優先度を判断する基礎データを取得
  • 改善対象とする業務範囲を明確化
2. 評価 「どこから取り組むべきか」を定量的に見極め、投資対効果を最大化する
  • 作業頻度・処理時間・エラー率・人件費などを評価
  • AI多変量解析で優先度をスコアリング
  • 経営層・現場とKPIや目標値(処理時間30%削減など)を合意形成
  • ROIが高い領域にフォーカスできる
  • 社内関係者の納得を得てプロジェクトを円滑に推進
3. 自動化 AI・RPA・iPaaS・低コードツールなどを組み合わせ、選定した業務を実際に自動化
  • RPAで定型操作をロボット化
  • AIモデルで判断業務を自動化(例:チャットボット、AI-OCR)
  • iPaaSでシステム間データ連携をノーコード化- 低コードツールで開発を推進
  • 人手作業が大幅に減り、生産性向上
  • 担当者がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整備
4. モニタリング 自動化したプロセスを監視し、継続的な最適化の指標を把握する
  • プロセスマイニングやBIツールでリアルタイム監視
  • エラー率や処理時間が閾値を超えた際のアラート設定
  • 新たな例外パターンや手戻りが出ていないかを定期チェック
  • 自動化を「放置」せず、常に最適な状態を維持
  • データや業務要件の変化に迅速に対応可能
5. 再自動化 モニタリング結果を踏まえて自動化の精度を高め、他プロセスにも水平展開
  • AIモデルやRPAシナリオを再調整・チューニング
  • 新たなボトルネックに適用範囲を拡大
  • CoE(センターオブ・エクセレンス)でガバナンスを取りつつ、標準化・品質チェックを徹底
  • 自動化が陳腐化せず、常に最新・最適な状態に進化
  • 組織文化として継続的改善が根付くことで競争力が向上

このサイクルを回し続けることで、一度構築した自動化スキームが学習と改善を重ね、時間の経過とともに生産性を向上させ続けるのが大きな特徴です。

たとえば従来のRPA導入では、「請求書処理」や「データ集計」など特定の定型業務に限定してロボット化していました。

しかし、例外対応が増えるたびに人手でロボットを修正・管理しなければならず、ロボット数の拡大がかえってコスト増へとつながるジレンマがありました。

ハイパーオートメーションでは、この「例外発生時の判断」をAIが担い、プロセスマイニングにより「今の組織に最適なプロセス」を客観的に可視化します。そうすることで従来の課題を抜本的に解消するのです。

ハイパーオートメーションを支える5つのテクノロジー

ハイパーオートメーションを実現するには、複数の技術を有機的に組み合わせる必要があります。

主な5つの柱は次のとおりです。

技術 役割・特徴 代表的な活用例
AI/生成AI 大量データからパターンを学習し、例外判断や自然言語処理を自動化。OCR・画像解析・生成AIにより非構造データも扱える。 AI-OCRで帳票や契約書をデジタル化しワークフローへ自動投入、チャットボットで顧客問い合わせに自動応答
プロセスマイニング ERP/CRM のイベントログから業務フローを再構築し、処理時間や再作業率を可視化。ヒアリングだけでは掴めない隠れたボトルネックを発見。 As-Is フローの自動描画、遅延ステップや逸脱ルートをスコアリングして最適な改善順序を提示
RPA 人間のクリック・入力操作をソフトウェアロボットが高速・正確に再現。ルールが明確な定型作業を 24 時間無停止で処理。 受注データの転記、請求書発行、システム間のコピー&ペーストを無人化
iPaaS (Integration Platform as a Service) マルチクラウド/オンプレのアプリをノーコードで接続し、API 連携やデータ変換を標準化。開発と保守コストを大幅削減。 在庫・販売・会計 SaaS をリアルタイム同期し、RPA や AI モデルに必要なデータ連携を即時実装
ローコード/ノーコード開発基盤 ドラッグ&ドロップで画面やロジックを組み立て、開発者が迅速にプロトタイプを内製。CoE が標準ガバナンスを提供。 現場部門が自作したワークフローを CoE レビュー後に全社展開、要件変更にも数日で対応

これらを単体で導入するのではなく、相互に連携し合う「面」として最適化することが、ハイパーオートメーション成功の要です。

AIとプロセスマイニングの組み合わせが生む効果

AIとプロセスマイニングを同時に活用することで、単独で使うより大きなメリットが生まれます。

例えば、次のような効果を得ることができます。

効果 解説
高速な業務フローの発見 以前は数週間かかっていた業務棚卸しを数時間で完了。AI がログをクラスタリングし、典型的パターンと異常パターンを即時に識別する。
改善ポイントの最適化 プロセスマイニングで可視化したプロセスに対し、AI が処理時間・再作業率などを多角的に分析して優先度をスコアリング。ROI の高い領域へリソースを集中できる。
自動化後の継続的改善 自動化済みフローをリアルタイム監視し、AI モデルを定期的に再学習。閾値やフローを自動調整し、業務環境や季節要因の変化にも柔軟に適応できる。

こうしたメリットを机上の理論で終わらせないためには、扱うログ量・求める分析の深さ、構築できる運用体制といった条件に応じて “どのツールを、どの段階で” 使うかを決める必要があります。

以下は、スモールスタートから大規模展開までの典型的なステップアップ例です。

規模/要件 推奨アプローチ 特徴・留意点
スモールスタート/試験導入 (ログ数 ≦ 数万行) Excel/Power Query+ピボット 初期費用ゼロ・現場だけで試せる。処理時間集計や簡易ヒートマップは可能だが、経路図の自動生成や逸脱検知は手作業になりやすい。
高度解析を低コストで (ログ数 10〜数百万行) Python+pm4py(OSS) pandas で前処理し、pm4py でフロー自動発見・コンフォーマンスチェックを実装可能。UI やガバナンスは自前だが、アルゴリズムの自由度と拡張性が高い。
大規模運用・ガバナンス重視 商用ツール(Celonis/UiPath Process Mining など) コネクタ・権限制御・リアルタイム監視を一式提供。ライセンス費用はかかるが、ダッシュボード連携や差分ロードが標準搭載され、大規模組織での統制に強い。

実際にツールを選定するときのポイントは、第一に 「ケース ID・アクティビティ名・タイムスタンプ」の 3 要素を確実にログとして取得できるか を確認することです。

要素 役割(何を示すか)
ケース ID どの案件・プロセス実行を一意に識別する番号 ORDER_12345(通販注文)/TICKET-2025-0007(サポートチケット)
アクティビティ名 その時点で「何をしたか」を表すラベル 検品完了承認待ちメール送信発注API呼び出し
タイムスタンプ アクティビティが「いつ実行されたか」を示す日時 2025-05-03 14:23:17(ISO 形式)

これがそろわなければ、いずれの手法でも正確なプロセス再現は望めません。

次に、導入初期は 「小さく作って早く測る」、つまり Excel や Python でインサイトを可視化し、経営層に数字でインパクトを提示することが重要です。

効果が実証できたら、「権限管理やリアルタイム性まで求められる本格運用フェーズに移行し、商用ツールでガバナンスを固める」という流れが、投資を抑えつつ価値を最大化する近道になります。

実践ロードマップ:6か月で効果を出すステップ

ハイパーオートメーションを初めて導入する際は、以下の流れで進めると失敗リスクを抑えつつ、早期に成果を得られます。

返品処理業務をハイパーオートメーションで改善した小売チェーン A 社の実例とともに説明します。

 ステップ 1:現状診断(Week 1–2)

基本タスク

  • プロセスマイニングツールに主要業務ログを取り込み、As-Is フロー(現行フロー)を可視化。
  • マネジメント層・現場メンバーとボトルネックおよび目標値(例:処理時間30 %短縮)を合意形成する。

A 社の場合

  • A 社では POS や WMS(倉庫管理)から抽出した 3 か月分の返品処理ログを利用。
  • プロセスマイニングの結果、返品伝票を「入力→検品→承認→返金」の 4 ステップで回しているが、検品から承認まで平均 26 時間滞留していることを数値で特定。
  • 目標を「検品~承認のリードタイムを 10 時間以内に短縮」「月次工数 600 h→300 h」の 2 つに設定し、経営会議で承認。

 ステップ 2:クイックウィン選定(Week 3–4)

基本タスク

  • 「処理頻度」「作業工数」「エラー発生率」を掛け合わせ、ROI が高いタスクを 3 件程度ピックアップ。
  • 早期成功のため、現場キーパーソンを巻き込み協力体制を築く。

A 社の場合

  • 返品伝票の検品結果登録(作業頻度:日 800 件)
  • 承認メール起票~ステータス更新(エラー率:7 %)
  • 月次返品レポート作成(工数:経理 2 名×3 日)

現場のリーダー2名を「自動化推進サブリーダー」に指名し、毎日 30 分のオンライン立ち会い時間を確保。

 ステップ 3:PoC 実施(Month 2–3)

基本タスク

  • AI モデル開発・RPA シナリオ作成・iPaaS 連携を最小スケールで実装。
  • 稼働削減時間やエラー率低減などの成果指標を測定し、社内へ共有。

A 社の場合

  • GoogleのAI-OCR+BERT モデルで手書き返品伝票を読み取り、RPA が WMS に自動入力。
  • 承認メール判定を生成 AI で要約 → 部長 Slack へプッシュ → ボタン押下で RPA が承認ステータス更新。
  • iPaaS で POS・WMS・会計 SaaS をノーコード連携。
  • 4 週間の運用で 検品~承認リードタイム 26 h → 8 h、エラー率 7 % → 0.8 % を達成。成果動画を 5 分にまとめ、全社朝礼で公開。

 ステップ 4:水平展開(Month 4–5)

基本タスク

  • PoC 成果を基に他部署・他プロセスへ適用範囲を拡大。
  • 現場開発者向け研修で内製化を促進し、“自動化文化”を醸成。

A 社の場合

  • 返品以外に 「不良在庫破棄申請」「サプライヤー請求照合」にも自動化を拡張。
  • Power Apps+UiPath の 1 日ハンズオンを 3 回開催し、店舗スタッフ 15 名が自作フローを構築。
  • 月末時点で 3 部署・9 プロセスへ水平展開し、累計削減工数が 月 1,200 h に拡大。

 ステップ 5:CoE 設置とガバナンス強化(Month 6 以降)

基本タスク

  • テンプレート・命名規約・品質チェックリストを整備し、CoE(Center of Excellence)中心の標準運用モデルを構築。
  • 組織全体へ「継続的改善」を浸透させる。

A 社の場合

  • IT 部+業務部門横断で CoE チーム(6 名)を発足。
  • GitHub Enterprise をバージョン管理基盤に採用し、Pull Request 時に自動コードレビュー+セキュリティスキャンを実施。
  • 「1 ロボット当たり月 100 h削減」を全社 KPI に設定し、達成度を Power BI ダッシュボードで役員会へ月次報告。
  • 半年経過後、返品リードタイムは 26 h → 6 h、年間で 人件費 4,800 h 相当を削減したと算定。

ちなみに、CoE(Center of Excellence)とは、社内に散在する専門知識やベストプラクティスを集約し標準化・教育・ガバナンスを担うことで、全社の取り組みを効率的かつ高品質に推進する常設の専門チーム(仮想組織)です。規模や戦略によっては、仮想組織ではなく正式な部門として設立されることもあります。

ケーススタディのご紹介

ここでは国内企業3社の成功事例を通じて、ハイパーオートメーションの成果を具体的にご紹介します。

 A 社(小売)返品フローの高速化

返品処理業務をAI-OCRとRPAで自動化し、月600時間の工数削減に成功。

担当者は作業時間を大幅に減らせたため、分析業務に集中し、棚卸しの精度も向上しました。

ステップ 具体的な取り組み
1 現状診断
  • 3 か月分の POS/WMS 返品ログをプロセスマイニングに投入。
  • 検品→承認で平均 26 h 滞留し、月 600 h の手作業が発生していると判明。
2 クイックウィン選定
  • 「返品伝票スキャン → 検品結果入力 → 承認メール起票」の 3 タスクを対象に決定。
  • 頻度(1 日 800 件)とエラー率(7 %)が高く ROI 最大。
3 PoC(M2–3)
  • AI‑OCR +画像前処理で手書き伝票を 98 % 認識
  • RPA が WMS に自動入力、チャットボットが承認依頼を Slack 送信
4 水平展開(M4–5)
  • 返品以外に「不良在庫破棄」「棚卸差異調査」へ拡張
  • 店舗スタッフ 15 名に Power Apps & UiPath ハンズオンを実施
5 CoE 設置(M6‑)
  • IT+業務横断 6 名で CoE 新設
  • GitHub Enterprise で RPA/AI コードを管理、Pull Request 必須に

 B 社(金融)与信審査 TAT 短縮

与信審査プロセスにAIを導入し、リスクの低い案件を自動承認する仕組みを整備。

これにより、従来48時間かかっていた審査時間(TAT)が33時間に短縮し、顧客満足度と業務効率の双方が向上しています。

ステップ 具体的な取り組み
1 現状診断
  • 1 年分のローン審査ログを解析し、低リスク案件でも平均 48 h 審査待ち
  • ボトルネックは「二次チェック」と判明
2 クイックウィン選定
  • 審査申込全体の 62 % を占める「給与振込口座あり・与信スコア高」の案件を自動承認候補に
3 PoC(M2–3)
  • 勤務先・取引履歴・信用情報を入力に Gradient Boosting モデルを構築(AUC 0.94)
  • ワークフローに API 連携し、低リスク案件は RPA が即時承認
4 水平展開(M4–5)
  • 個人ローン → 法人レンディングへ拡大
  • 研修で 20 名のアナリストがローン属性の特徴量エンジニアリングを自走
5 CoE 設置(M6‑)
  • 与信モデルのバージョン管理とバイアス検証を CoE が一元担当
  • 週次でドリフト検知レポートを提出

 C 社(製造)購買~発注~入庫の自動連携

購買申請から発注、入庫までをiPaaSで連携し、AI予測モデルをトリガーに自動発注を行うフローを構築。

発注リードタイムを60%短縮し、結果的に数億円規模でキャッシュフローが改善しました。

ステップ 具体的な取り組み
1 現状診断
  • ERP/MES/倉庫システムのイベントログを統合
  • 購買申請→発注→入庫で平均 9 日かかることを可視化
2 クイックウィン選定
  • 高頻度 5 資材(全購買額の 40 %)に絞る
  • リードタイム短縮効果が大きい工程をターゲット化
3 PoC(M2–3)
  • 時系列需要予測(Prophet+休日カレンダ)で週次需要を推定
  • iPaaS が ERP 発注 API を呼び出し、RPA が入庫予定を MES へ登録
4 水平展開(M4–5)
  • 予測モデルを 8 工場に横展開
  • 資材カテゴリを 20 → 80 品目へ拡大
5 CoE 設置(M6‑)
  • サプライチェーン CoE が発足
  • 異常在庫検知や需要急増アラートなど追加 AI 機能をテンプレ化

成果を示すKPIとROIの算出方法

ハイパーオートメーションを運用していくうえで、定量的に成果を示すことは欠かせません。

以下は、よく使われる主な指標と計算方法です。

KPI指標 計算方法(算出式)
自動化率 自動で実行されたタスク数 ÷ 全タスク実行数
サイクルタイム短縮率 (旧平均処理時間 − 新平均処理時間) ÷ 旧平均処理時間
定量 ROI (削減した人件費 + 売上インパクト − 導入・運用コスト) ÷ 導入・運用コスト

これらの数値はBIツールのダッシュボードに集約し、月次で経営層に報告する仕組みを整えると、取り組みの価値を継続的に可視化できます。

まとめ

今回は、「RPAの次に来るAI×プロセスマイニングで描く『ハイパーオートメーション』」というお話しをしました。

ハイパーオートメーションは単なるツール導入ではなく、組織として「継続的改善」を文化に根付かせる取り組みです。

今日から始められる具体的なアクションは下記の3つです。

  • 現行プロセスのログ取得体制を整える
  • ボトルネックと考えられる業務をリストアップし、仮説を立てる
  • PoC(概念実証)用の予算とスプリント体制を確保する

自動化で生まれた余力を、クリエイティブな業務や顧客体験の向上にシフトできれば、企業が「人とAIが共創する全自動体制」へ踏み出す一歩になるでしょう。