第473話|展示会 vs 広告 vs 営業訪問、最もROIが高いのはどれ?
B2B製造業のMMM導入事例

第473話|展示会 vs 広告 vs 営業訪問、最もROIが高いのはどれ? B2B製造業のMMM導入事例

BtoB製造業の営業・マーケティング担当者であれば、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

「展示会に毎年何百万円もかけているが、本当に元が取れているのだろうか」
「デジタル広告を始めたものの、効果があるのかないのか判断できない」
「営業担当者の訪問活動と広告施策、どちらに予算を振るべきか」

このような問いです。

今回は、産業機器メーカーB社がマーケティングミックスモデリング(MMM)を導入し、展示会・広告・営業訪問という3つの施策の費用対効果を可視化した事例をご紹介します。

分析の結果、それぞれの施策が持つ「効果の特性」が明らかになり、予算配分の最適化によってリード数22%増加という成果につながりました。

BtoB領域でのMMM活用に関心をお持ちの方にとって、実践的なヒントが得られる内容となっています。

B2B製造業が抱える「効果測定の闇」

 展示会費用への漠然とした不安

D氏は、産業機器メーカーB社で営業企画部長を務めています。

B社は従業員約200名の中堅メーカーで、工場や物流センター向けの搬送機器を製造販売しています。

製品単価は数百万円から大型案件では数千万円に及び、顧客の検討期間は半年から1年以上かかることも珍しくありません。

B社の営業活動は、大きく3つの柱で構成されています。

1つ目は展示会への出展です。

業界の専門展示会に年間6回出展しており、出展料、ブース設営費、カタログ・ノベルティ制作費、人件費、交通宿泊費を合わせると、1回あたり500万円以上のコストがかかっています。年間では3,000万円を超える投資です。

2つ目は広告活動です。

業界専門誌への広告掲載に加え、3年前からはデジタル広告にも着手しました。業界専門メディアへのバナー広告、リスティング広告、そして最近ではリターゲティング広告も実施しています。

3つ目は営業担当者による訪問活動です。

全国に配置された15名の営業担当者が、既存顧客のフォローと新規開拓のために日々顧客を訪問しています。

D氏の悩みは、これら3つの施策の費用対効果が把握できていないことでした。

特に展示会については、経営層から「年間3,000万円の投資に見合うリターンがあるのか」と繰り返し問われてきましたが、明確な答えを返すことができずにいました。

展示会後に名刺交換数や来場者アンケートの結果を報告することはできても、「その結果、いくらの売上につながったのか」という本質的な問いには答えられなかったのです。

 デジタル広告の効果が「見えない」問題

デジタル広告についても、D氏は効果測定の壁に直面していました。

BtoC企業であれば、広告をクリックしてそのまま購入に至るケースも多く、広告効果を比較的追跡しやすいと言われています。

しかしBtoB製造業では、状況が大きく異なります。

B社の製品は高額であり、購入の意思決定には複数の関係者が関与します。

設備担当者が情報収集し、現場責任者が要件を整理し、購買部門が見積もりを取り、最終的には経営層が決裁するという多段階のプロセスを経ます。

広告を見てから実際に問い合わせに至るまで数ヶ月かかることもあれば、広告を見た担当者と問い合わせをする担当者が別人というケースも少なくありません。

このような購買プロセスの複雑さから、「この広告経由で受注につながった」という因果関係を追跡することが極めて困難でした。

ウェブサイトへの流入数やクリック率といった中間指標は測定できても、それが最終的な売上にどう貢献しているのかが見えないのです。

結果として、デジタル広告の予算は「とりあえず続けている」という状態に陥っていました。

増やすべきなのか、減らすべきなのか、あるいは別の媒体に切り替えるべきなのか、判断材料がないまま惰性で継続していたのです。

 見積依頼の増減要因がブラックボックス

D氏が最も歯がゆく感じていたのは、見積依頼数の増減要因がわからないことでした。

B社では月に30〜50件程度の見積依頼が発生しますが、その数は月によって大きく変動します。ある月に見積依頼が急増しても、それが何の効果なのかを特定することができませんでした。

たとえば、ある年の10月に見積依頼数が前月比で40%増加したことがありました。

10月には大規模な業界展示会に出展しており、デジタル広告も強化していました。また、営業担当者には下期のスタートに合わせて訪問件数を増やすよう指示も出していました。

見積依頼が増えたのは展示会の効果なのか、広告の効果なのか、営業活動の成果なのか、あるいは顧客企業の予算サイクルによる季節要因なのか、判別する術がなかったのです。

複数の施策を同時並行で実施しているがゆえに、「何がどれだけ効いているか」を分離することができない。

この状態では、限られた販促予算をどこに重点配分すべきかという意思決定が、結局のところ「例年通り」という慣性に支配されてしまいます。

D氏はこの状況を打破する方法を探していました。

B2B製造業にMMMは適用できるのか

 BtoCとBtoBでは「効果の出方」が異なる

D氏がマーケティングミックスモデリング(MMM)という手法を知ったのは、商工会議所のセミナーでの講演がきっかけでした。

MMMとは、売上や来店客数といった成果指標に対して、広告、販促、季節性、外部環境など複数の要因がそれぞれどの程度寄与しているかを統計的に分解する分析手法です。

MMMはもともと消費財メーカーのテレビCM効果測定から発展した手法であり、BtoC領域での活用事例が豊富にあります。

テレビCMを放映した翌週にスーパーでの売上が上がるというシンプルな因果関係が成り立ちやすいため、分析モデルが構築しやすいのです。

一方、BtoB製造業ではいくつかの点で状況が異なります。

まず、検討期間が長いという特性があります。

広告を見てから購入に至るまで数ヶ月から1年以上かかることも珍しくなく、施策と成果の時間差が大きくなります。

次に、意思決定者が複数いるという問題があります。

広告に接触した人と最終的に発注を決める人が異なるケースが多く、効果の経路が複雑です。

さらに、取引金額が大きくサンプル数が少ないという課題もあります。月に数件しか受注がない場合、統計的な分析を行うには母数が不足します。

D氏も当初は「うちのような業態でMMMが使えるのだろうか」と懐疑的でした。

 「リード数」を成果指標にすることで分析が可能に

B社のケースでは、最終的な受注件数ではなく「見積依頼数(リード数)」を成果指標として設定することで、MMMの適用が可能になりました。

受注件数を成果指標にした場合、B社では月に5〜10件程度しかサンプルが得られず、統計分析には不十分です。

また、受注に至るかどうかは営業担当者の交渉スキル、競合他社の動向、顧客企業の予算状況など、マーケティング施策以外の要因に大きく左右されます。

一方、見積依頼数であれば月に30〜50件程度発生しており、週次データとして集計すれば十分なサンプル数を確保できます。

さらに、見積依頼は営業プロセスの「入口」に位置する指標であり、展示会や広告といったマーケティング施策の効果がより直接的に反映されます。

この考え方は、マーケティングファネルの上流を測定するという発想に基づいています。

最終的なコンバージョン(受注)ではなく、中間コンバージョン(見積依頼)を測定することで、マーケティング施策の効果をより純粋に捉えることができるのです。

 分析に使用したデータの全体像

B社のMMMでは、2年間分の週次データを使用して分析を行いました。成果指標として設定したのは週次の見積依頼件数です。

説明変数として設定したのは、まず展示会関連のデータです。

出展週のフラグに加え、展示会後の数週間にわたる「余韻効果」を捉えるために、出展後1週目、2週目、3週目、4週目というラグ変数も作成しました。展示会ごとに規模や来場者数が異なるため、展示会別のフラグも設定しています。

次に、広告関連のデータです。

デジタル広告については週次の出稿金額とインプレッション数を使用しました。業界専門誌への広告については、掲載週のフラグを設定しています。

営業活動については、週次の訪問件数データを使用しました。

B社ではSFA(営業支援システム)を導入しており、営業担当者の訪問記録が蓄積されていたため、このデータを活用することができました。

外部環境要因としては、業界の設備投資動向を示す指標、主要顧客業界の景況感指標、そして季節性フラグ(年度末、年度始め、夏季休暇時期など)を組み込みました。

BtoBでは顧客企業の予算サイクルが購買行動に大きく影響するため、この季節性の考慮は非常に重要でした。

MMMで見えた「3大施策」の真の姿

 展示会は「短期集中型」の効果

MMMの分析結果は、D氏にとって驚きと納得が入り混じるものでした。まず展示会の効果について見ていきましょう。

分析の結果、展示会の効果は非常に明確なパターンを示していました。

出展した週およびその翌週に見積依頼数が顕著に増加し、その効果は3週目まではある程度持続するものの、4週目以降には急速に減衰していたのです。

グラフで表現すると、急激に立ち上がって急激に落ちる「山型」の曲線を描きます。

この結果は、展示会が「短期的なリード獲得」には非常に強いが、「持続的な効果」は期待しにくいことを意味しています。

展示会で名刺交換した見込み客は、展示会直後には記憶が鮮明で問い合わせにつながりやすいものの、時間が経つと他の情報に埋もれてしまうという、直感的にも理解しやすい結果でした。

さらに興味深い発見がありました。年間6回の展示会を個別に分析したところ、効果に大きなばらつきがあったのです。

業界最大規模の展示会は非常に高い効果を示し、見積依頼1件あたりの獲得コストで見ても効率的でした。しかし、規模の小さい専門展示会の一部は、出展コストに見合うリード獲得ができていませんでした。

すべての展示会を「展示会」という一括りで評価するのではなく、個別に費用対効果を検証する必要性が浮き彫りになったのです。

 デジタル広告には「長いテール効果」があった

D氏にとって最も意外だったのは、デジタル広告の効果特性でした。

展示会と比較すると、デジタル広告の即効性は明らかに低いものでした。

広告を出稿した週に見積依頼が急増するということはありません。しかしMMMの分析結果は、広告出稿後の効果が非常に長い期間にわたって持続していることを示していました。広告出稿後、2週目、4週目、さらには8週目になっても、統計的に有意な効果が検出されたのです。

この「テール効果」は、BtoBの購買プロセスを考えれば説明がつきます。

潜在顧客は広告を見た瞬間に問い合わせをするのではなく、まず認知し、記憶にとどめ、自社で設備投資の必要が生じたタイミングで「そういえばあの会社があったな」と思い出して問い合わせるのです。

広告接触から見積依頼まで数ヶ月かかることはBtoBでは当たり前のことであり、MMMはこの時間差を含めた効果を統計的に捉えることができました。

投下金額あたりのリード獲得効率で見ると、デジタル広告のROIは展示会と同等か、むしろ上回っていました。

これは「効果が見えない」と感じていたD氏にとって、認識を大きく覆す発見でした。デジタル広告は効果がなかったのではなく、効果が「見えにくい形で」表れていたのです。

 営業訪問は「確実だがコスト高」

3本柱の最後、営業訪問についても明確な知見が得られました。

営業担当者の訪問件数と見積依頼数の間には、正の相関関係が確認されました。

訪問件数が多い週は見積依頼も増える傾向があり、営業訪問が確実にリード獲得に貢献していることがデータで裏付けられました。

営業担当者の日々の活動が成果につながっているという意味で、現場にとっては励みになる結果です。

しかし、コスト効率の観点では課題も浮かび上がりました。

営業担当者1人が1日に訪問できる件数には限りがあり、訪問1件あたりには人件費、交通費、時間コストがかかります。

これらを考慮して「訪問1件あたりのコスト」を算出し、そこから得られるリード数で割ると、見積依頼1件あたりの獲得コストは展示会やデジタル広告と比べて高くなっていました。

営業訪問は「確実に効くが効率面では課題がある」施策であるという結論です。だからといって営業訪問を減らせばよいという単純な話ではありません。

営業訪問には、顧客との信頼関係構築、個別ニーズの深い理解、競合情報の収集など、単純なリード獲得以外の価値があります。これらは定量化しにくいものの、BtoB営業において極めて重要な要素です。

MMMの結果は「営業訪問は不要」ということを示しているのではなく、「営業訪問を効率化する余地がある」ということを示唆していました。

 3施策の効果特性まとめ

ここで、3つの施策の効果特性を整理しておきましょう。

展示会は即効性が高く、出展後2〜3週間に集中して効果が表れます。大規模展示会は効率が良いものの、小規模専門展示会は費用対効果にばらつきがあります。「短期集中で一気にリードを獲得したい」場面に適した施策です。

デジタル広告は即効性こそ低いものの、効果が長期間にわたって持続するテール効果があります。BtoBの長い検討期間に適した特性を持ち、コスト効率も良好です。「継続的に認知を維持し、必要が生じたタイミングで想起してもらう」という役割に適しています。

営業訪問は確実に効果がありますが、人的コストが高いためリード獲得の効率は相対的に低くなります。ただし、関係構築やニーズ把握といった定性的な価値を持っており、単純なコスト比較だけでは評価できない側面があります。

これら3つの施策は、それぞれ異なる特性を持っています。どれが「最も良い」というものではなく、目的と状況に応じて使い分けることが重要だということが、MMMを通じて明らかになりました。

データに基づいた予算再配分

 展示会を年6回から4回に削減

MMMの分析結果を受け、B社は具体的なアクションに踏み切りました。

まず着手したのは、展示会の見直しです。

年間6回の展示会出展を4回に削減するという決断を下しました。

削減対象となったのは、分析で効果が低いと判定された専門展示会2件です。いずれも規模が小さく、見積依頼1件あたりの獲得コストが高くなっていました。

一方、業界最大規模の展示会と、主要顧客が多く来場する展示会は継続して出展することにしました。

この決断は社内で議論を呼びました。

営業部門からは「展示会に出ないと競合に負ける」「顧客から見えなくなる」という懸念の声が上がりました。これまで毎年出展してきた展示会を取りやめることへの心理的な抵抗もありました。

D氏は、MMMの分析結果を示しながら丁寧に説明を行いました。

「過去2年間のデータを分析した結果、この展示会は出展コスト500万円に対して見積依頼が○件しか獲得できていません。一方、同じ予算をデジタル広告に振り向ければ○件のリード獲得が見込めます」という具体的な数値を示すことで、感情論ではなくデータに基づいた議論が可能になりました。

 浮いた予算をデジタル広告に再配分

展示会を2回削減することで、年間約1,000万円の予算が浮くことになりました。

この予算をどこに振り向けるかについても、MMMの結果が判断材料となりました。

分析結果では、デジタル広告が高いコスト効率と長いテール効果を持つことが示されていました。そこでB社は、浮いた予算の大部分をデジタル広告の強化に充てることを決定しました。

具体的には、リターゲティング広告の拡充に重点を置きました。

リターゲティング広告とは、一度ウェブサイトを訪問したユーザーに対して継続的に広告を表示する手法です。MMMで確認された「テール効果」を最大化する狙いがあります。

B社のウェブサイトを訪れた見込み客は、その時点では情報収集段階かもしれませんが、数ヶ月後に設備投資の検討が本格化した際にB社を思い出してもらえるよう、継続的に接点を維持するのです。

また、展示会とデジタル広告を連動させる施策も開始しました。

展示会で獲得した名刺情報をもとに、メールマーケティングとリターゲティング広告を組み合わせたナーチャリング(見込み客育成)プログラムを構築したのです。

展示会の「短期集中型」の効果と、デジタル広告の「長期持続型」の効果を組み合わせることで、相乗効果を狙いました。

 営業訪問の「量から質へ」の転換

営業訪問については、件数を減らすのではなく、「質」を高める方向に舵を切りました。

MMMの結果は、営業訪問のコスト効率が相対的に低いことを示していましたが、これは「営業訪問を減らすべき」という結論を意味するものではありません。

むしろ、同じ訪問件数でより多くの成果を上げるにはどうすればよいか、という問いを立てるべきだとD氏は考えました。

そこで導入したのが、デジタルデータを活用した訪問先の優先順位付けです。

ウェブサイトの行動履歴、メールの開封・クリック履歴、過去の問い合わせ履歴などをもとに、「関心度の高い見込み客」を特定するスコアリングの仕組みを構築しました。

営業担当者は、スコアの高い見込み客を優先的に訪問することで、限られた時間をより確度の高い案件に集中できるようになりました。

この取り組みにより、訪問件数は維持しながらも、1件あたりの成約確度が向上することが期待されました。「とりあえず回る」営業から「狙いを定めて回る」営業への転換です。

成果と組織への影響

 リード数22%増加を達成

施策の再配分から1年が経過した時点で、見積依頼数は前年比で22%の増加を達成しました。

内訳を見ると、興味深い変化が起きていました。

展示会経由のリードは出展回数を削減した分だけ減少しています。年間6回から4回に減らしたため、展示会直後のリード獲得数は前年を下回りました。

しかしその減少分を大きく上回る形で、デジタル広告経由の問い合わせが増加していたのです。

デジタル広告への予算再配分が効果を発揮したのに加え、展示会とデジタル広告を連動させたナーチャリングプログラムも貢献しました。

展示会で一度接点を持った見込み客に対して、継続的にデジタル広告やメールでリマインドすることで、従来は取りこぼしていた「時間が経ってからの問い合わせ」を獲得できるようになったのです。

販促費の総額は前年とほぼ同水準を維持しながら、リード数を22%増加させたということは、販促費の生産性が大きく向上したことを意味します。

MMMによる予算最適化が正しかったことを、結果が証明しました。

 経営層との対話が変わった

D氏にとって、数字の改善以上に大きかったのは、経営層との対話の質が変化したことでした。

これまでは、経営層から「展示会の効果はどうだった?」と問われても、「名刺交換数○枚、来場者アンケートの回答数○件」という定性的な報告にとどまっていました。

それが売上にどう結びついたのかという核心的な問いには、曖昧にしか答えられなかったのです。

MMM導入後は、状況が一変しました。

「展示会Aのリード獲得単価は○万円、デジタル広告のリード獲得単価は○万円です」「展示会の効果は4週間で減衰しますが、デジタル広告は8週間持続します」といった具体的な数値で議論できるようになりました。

経営層も、データに基づいた議論ができるようになったことで、販促予算の増減について合理的な判断を下しやすくなりました。

「なんとなく例年通り」という惰性の意思決定から脱却し、「この施策に追加投資すれば、これだけのリード増が見込める」「この施策を削減しても、他でカバーできる」という建設的な議論が可能になったのです。

D氏は「数字で語れるようになったことで、販促費が『コスト』ではなく『投資』として認識されるようになった」と語っています。

 営業とマーケティングの連携強化

MMM導入のもう一つの効果として、営業部門とマーケティング部門の連携が強化されました。

従来、両部門の間には微妙な緊張関係がありました。

マーケティング部門は「リードを渡しているのに営業がクロージングできていない」と感じ、営業部門は「質の低いリードを渡されても受注につながらない」と感じていたのです。

MMMの分析プロセスを通じて、両部門が同じデータを見ながら議論する機会が増えました。

「展示会で獲得したリードは○週間後に問い合わせに転換する傾向がある」「デジタル広告経由のリードはこういう属性の企業が多い」といった知見が共有されることで、相互理解が深まりました。

また、デジタルデータを活用した営業訪問の優先順位付けは、マーケティング部門が蓄積したデータを営業部門が活用するという、新しい協業の形を生み出しました。

リードの「質」を可視化することで、「質の高いリードを渡してほしい」という営業の要望に対して、マーケティング部門が具体的に応えられるようになったのです。

 継続的なモニタリング体制の構築

B社ではMMMを一度きりの分析プロジェクトとして終わらせるのではなく、継続的な運用に組み込む体制を構築しました。

四半期ごとにモデルを更新し、各施策の効果が変化していないかをモニタリングしています。

市場環境、競合の動向、顧客の行動パターンは常に変化しており、過去の分析結果がそのまま未来に当てはまるとは限らないからです。

たとえば、競合他社が同じ展示会への出展を強化すれば、相対的にB社の展示会効果は低下する可能性があります。こうした変化を早期に検知し、対応するためには、継続的なモニタリングが欠かせません。

また、新たな施策を試す際のフレームワークとしてもMMMが活用されるようになりました。

たとえば「ウェビナーを開催したい」という提案があった場合、事前に「どのようなデータを取得すれば効果測定ができるか」を検討し、必要なデータ収集体制を整えてから施策を実行するという流れが定着しました。

今回のまとめ

今回は、「展示会 vs 広告 vs 営業訪問、最もROIが高いのはどれ? B2B製造業のMMM導入事例」というお話しをしました。

B社の事例から得られる最も重要な教訓は、「効果が見えない」と感じていた施策も、適切な分析手法を用いれば効果を可視化できるということです。

D氏は当初、デジタル広告について「効果があるのかないのかわからない」と感じていました。

しかしMMMの結果は、デジタル広告がむしろ最も効率の良い施策の一つであることを示していました。

効果がなかったのではなく、効果が「見えにくい形で」長期間にわたって表れていたのです。

同様に、展示会についても「効果がある」という漠然とした確信がありましたが、個別に分析すると効果の高い展示会と低い展示会が混在していることがわかりました。

すべてを一括りに評価するのではなく、個別に費用対効果を検証することの重要性が浮き彫りになりました。

BtoB製造業は、消費財業界と比べてマーケティングのデータ活用が遅れていると言われることがあります。

検討期間が長い、サンプル数が少ない、効果測定が難しいといった事情があることは確かです。

しかしB社の事例は、工夫次第でMMMがBtoB領域でも十分に機能することを示しています。

「展示会は本当に元が取れているのか」「デジタル広告に意味はあるのか」「営業訪問と広告、どちらに予算を振るべきか」という問いに、感覚ではなくデータで答えられるようになること。

それは単なる分析スキルの問題ではなく、組織の意思決定の質を根本から変える取り組みです。

BtoBマーケティングに携わる方々にとって、B社の事例が一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。