第174話|不測の事態が起こり、先の見えないときに活用するゲーム理論的データ分析・活用術

第174話|不測の事態が起こり、先の見えないときに活用するゲーム理論的データ分析・活用術

昨今の、新コロナウイルスという不測の事態により、先が見えない状況が続いています。

サイコロやじゃんけんと異なり、今後どうなるか分からないときの意思決定に、ゲーム理論を活用したデータ分析・活用をすることが多々あります。

今回は、「不測の事態が起こり、先の見えないときに活用するゲーム理論的データ分析・活用術」というお話しをします。

ビスマルク海海戦

ビスマルク海海戦とは、第二次世界大戦中の1943年に日本軍と連合軍の間に起きた海戦です。

マッカーサー指揮下の連合国軍ニューギニア・オーストラリア方面部隊が、日本軍の輸送船団に対し航空攻撃を行った戦闘で、ダンピール海峡の悲劇とも呼ばれています。

結果は、連合軍の航空攻撃により日本軍の輸送船団は壊滅させられました。

Burning Japanese Ship (Battle Of The Bismarck Sea).jpg
Public Domain, Link

状況説明

状況を簡単に説明します。

日本軍は、ニューブリテン島ラバウル(ニューブリテン島東部)から、ニューブリテン島の西隣にあるニューギニア島のラエ(ニューギニア島東部)まで物資を運びたい。

簡単に言うと、ニューブリテン島の東側から西側(実際は、西隣のニューギニア島)に物資を運びたい。

物資を運ぶルートは、ニューブリテン島の北側ルート南側ルートの2つあります。

悩みどころは、どちらのルートで物資を運ぶのか? ということです。

Battle of the Bismark Sea.jpg
Public Domain, Link

要するに、相手の手が読めない状況で意思決定し行動に移す必要があるのです。

このような、先の見えないときに活用するのがゲーム理論的データ分析です。

この例は相手が連合軍ですが、相手を新型コロナウイルスの状況として考えると、同じようなデータ分析をすることができます。

ルート(選択肢)

ビスマルク海海戦のルート(選択肢)です。

  • 北側ルート
  • 南側ルート

連合軍から見た場合には、北側を偵察するのか、南側を偵察するのか、という選択肢が発生します。

日本軍にとっては、北側ルートを選んだときに連合軍が北側の偵察を選んだり南側ルートを選んだときに連合軍が南側の偵察を選んだりすると、よろしくありません

日本軍にとっては、連合軍の選択と逆が望ましいです。なぜならば、連合軍による発見が遅れ、その結果爆撃期間が短くなるからです。

日本軍サイドから考えると、物資を運ぶにに要する4日間の内、どれだけ爆撃期間を短くするのかがポイントになります。連合軍サイドから考えると、どれだけ爆撃期間を長くするのかがポイントになります。

ポイントは、爆撃期間です。

ゲーム理論的には、ここで利得行列というマトリクスを作り分析を進めます。

利得行列

爆撃期間を元に、日本軍の利得行列を作ると、次のようになります。

視点を連合軍に移し、爆撃期間を元に、連合軍の利得行列を作ると、次のようになります。

これらの利得行列を元に、どのような選択肢をすべきかを考えていきます。

取り急ぎ、MaxMin戦略

利得行列を元に、どのような選択肢をすべきかを考えるとき、色々な考え方があります。

相手の手は幾つか想像はできるが、どの手がどの程度の確率で起きそうなのか、検討が付かない場合によく利用するのが、MaxMin戦略です。

昨今の新型コロナウイルスの状況で考えれば、想定される状況を幾つか考えられるものの、どの状況が起こりそうかが読めない場合に相当します。

例えば……

  • 梅雨前に収束
  • 梅雨前にやや収束し、1年後に完全収束
  • 梅雨前に感染拡大が落ち着き、1年後にやや収束、ワクチンが開発され3年後に完全収束
  • ワクチンが開発され現在流行している新型コロナウイルスは3年後に収束するものの、インフルエンザの用に、常に変異し続ける新型コロナウイルスとともに、ワクチンを開発しながら生きていく
  • 1年後には感染は落ち着くものの、有効なワクチンが開発されず、現状の状態のまま新型コロナウイルスとともに生きていく

などなど。このようなシナリオを複数準備し検討していきます。シナリオの数は、数種類でもいいですが、実務的には数百でも数千でも構いません。

話しを戻します。

MaxMin戦略は、2 Stepで考えます。

  • Step 1:各選択肢の最悪を想定(Min)
  • Step 2:最もましな選択肢を選択(Max)

日本軍のMaxMin戦略

先ずは、日本軍のMaxMin戦略です。次のようになります。

日本軍が北側ルートを選んだとき最悪なのは、連語軍が北側を選んだときです。

このとき利得は「-2」(2日間の爆撃)です。要は、北側ルートを選んだとき最悪「-2」だ、ということで、見方を変えればこれ以上最悪にならないとも言えます。

日本軍が南側ルートを選んだとき最悪なのは、連語軍が南側を選んだときです。

このとき利得は「-3」(3日間の爆撃)です。要は、南側ルートを選んだとき最悪「-3」だ、ということで、見方を変えればこれ以上最悪にならないとも言えます。

北側ルートと南側ルートの最悪を想定した中で、最もましな選択肢はどちらでしょうか?

北側ルートが「-2」で、南側ルートが「-3」なので、北側ルートの方がいいです。

要するに、日本軍のMaxMin戦略は「北側ルート」になります。

連合軍のMaxMin戦略

同様に、連合軍で考えると、次のようになります。

日本軍と同様に、MaxMin戦略的には「北側」という選択になります。

では実際どちらを選んだのでしょうか?

日本軍も連合軍も、実際「北側」を選択しました。そして、日本軍は壊滅的な状況に陥りました。合理的な判断をしたにも関わらずです。大局観で、この作戦そのものを根本から見直す必要があったのでしょう。

今回のまとめ

今回は、「不測の事態が起こり、先の見えないときに活用するゲーム理論的データ分析・活用術」というお話しをしました。

サイコロやじゃんけんと異なり、今後どうなるか分からないときの意思決定に、ゲーム理論を活用したデータ分析・活用をすることが多々あります。

相手の手は幾つか想像はできるが、どの手がどの程度の確率で起きそうなのか、検討が付かない場合によく利用するのが、MaxMin戦略です。

昨今の、新コロナウイルスという不測の事態により、先が見えない状況が続いる場合に、このようなゲーム理論的データ分析・活用術が有効かもしれません。

この場合、連合軍に相当するのが新コロナウイルスになり、相手の手が「収束するまでの期間」となるかもしれません。