第468話|美容室が顧客カルテをGoogleスプレッドシートで分析、リピート率80%達成

第468話|美容室が顧客カルテをGoogleスプレッドシートで分析、リピート率80%達成

個人経営の美容室が、紙の顧客カルテ300枚をデジタル化し、Googleスプレッドシートの簡単な関数を使って分析することで、驚くべき成果を上げました。

3ヶ月来店がない常連客の自動抽出、季節に応じた需要予測、そしてLINEを活用したパーソナライズメッセージの配信。

特別なシステムを導入することなく、無料のツールだけでリピート率を60%から80%へと大幅に向上させ、月商30%アップを実現しました。

デジタル化は苦手と感じている美容室オーナーにこそ知ってもらいたい、身近なツールで始められるデータ活用の成功事例を、簡単にご紹介します。

紙のカルテに埋もれた宝の山

 個人経営美容室の日常的な悩み

駅から徒歩5分の住宅街で美容室を営むAさん(45歳)は、開業から8年目を迎えていました。

技術には自信があり、一度来店したお客様からの評価も高い。

それなのに、なぜか経営は思うように伸びませんでした。

特に悩んでいたのがリピート率の低さです。

新規のお客様は月に20~30人ほど来店しますが、2回目の来店につながるのは6割程度。

さらに、常連と呼べるお客様も、気がつくと3ヶ月、半年と足が遠のいてしまうケースが少なくありませんでした。

「技術やサービスに問題があるとは思えない。でも、何かが足りない」。

Aさんは毎晩、店を閉めた後にそう自問自答していました。

 300枚のカルテが教えてくれなかったこと

美容室の奥の棚には、開業以来蓄積された約300枚の顧客カルテがファイリングされていました。

一枚一枚には、お客様の名前、連絡先、施術履歴、髪質の特徴、好みのスタイル、そして接客時の会話内容まで、Aさんが丁寧に手書きで記録していました。

しかし、これらのカルテは個別のお客様の情報を確認する時にしか活用されていませんでした。

「Bさんは前回いつ来店したか」
「カラーリングのお客様は何人いるのか」
「最近来なくなったお客様は誰か」

このような全体的な傾向を把握することは、紙のカルテでは困難でした。

貴重な情報が詰まっているはずなのに、それを経営に活かせていない。

Aさんは、カルテの山を見るたびにもどかしさを感じていました。

きっかけは商工会議所の無料セミナー

 勉強会で聞いた意外な話

ある日、商工会議者の無料セミナーに参加したAさんは、興味深い話を聞きました。

「去年まではリピート率で悩んでいたんだけど、顧客データをGoogleスプレッドシートで管理するようにしたら、すごく改善した」

特別なソフトを購入したわけではなく、無料のGoogleスプレッドシートに顧客情報を入力し、簡単な関数を使って分析しているだけだといいます。

それだけで、来店していないお客様を自動でリストアップし、適切なタイミングでアプローチできるようになったとのことでした。

 300枚のカルテをデジタル化

この話に刺激を受けたAさんは、思い切って全ての顧客カルテをデジタル化することを決意しました。

Googleアカウントを作成し、スプレッドシートを開いて、まずは項目を設定しました。

顧客番号、名前、電話番号、メールアドレス、LINE登録の有無、初回来店日、最終来店日、来店回数、よく利用するメニュー、平均利用金額、誕生日、髪質、好みのスタイル、特記事項など、14の項目を用意しました。

そして、毎晩営業後に1時間ずつ、カルテの内容を入力していきました。

最初は慣れない作業に苦労しましたが、1週間後には300枚すべての入力が完了しました。

画面に表示された顧客リストを見て、Aさんは達成感と期待感に包まれました。

簡単な関数が見せてくれた驚きの事実

 3ヶ月来店がない常連客が82名も

データ入力が終わったAさんは、インターネットで調べながら簡単な関数を使い始めました。

まず試したのは、最終来店日から今日までの日数を計算する関数です。

「=TODAY()-最終来店日」という単純な式でしたが、これが大きな発見につながりました。

90日以上来店していないお客様を抽出してみると、なんと82名もいました。

しかも、月1回ペースで通っていた常連客も含まれていました。

Aさんは愕然としました。

「こんなにたくさんのお客様が、いつの間にか離れていたなんて」

さらに分析を進めると、来店が途絶えるタイミングにはパターンがあることが分かりました。

3回目の来店後に来なくなる人が最も多く、次いで季節の変わり目、特に春から夏にかけての時期に足が遠のく傾向がありました。

 メニュー履歴から見えてきた季節需要

次にAさんが注目したのは、メニューと季節の関係でした。

ピボットテーブル機能を使って、月ごとのメニュー別利用者数を集計してみました。

すると、明確な季節性が浮かび上がってきました。

5月から6月にかけて、ストレートパーマやトリートメントの需要が急増していました。梅雨の湿気対策です。

9月から10月はカラーリングが増え、12月はパーマが人気でした。年末年始のイベントに向けた準備でしょう。

「これまで何となく感じていたことが、数字ではっきりと見えるようになった」。

Aさんは、データの力を実感しました。しかし、本当に重要なのは、この発見をどう活かすかでした。

データを武器にした積極的なアプローチ

 LINEを活用したパーソナライズメッセージ

データ分析で得られた知見を基に、Aさんは具体的なアクションを開始しました。

まず着手したのは、3ヶ月以上来店していない82名へのアプローチです。

LINE公式アカウントに登録しているお客様には、一人ひとりにパーソナライズされたメッセージを送信しました。

「○○様、前回のカラーリングから3ヶ月が経ちました。そろそろ根元の色が気になる頃ではないでしょうか?」
「△△様、夏に向けてストレートパーマはいかがですか?去年も5月にご利用いただきましたね」

単なる一斉送信ではなく、その人の施術履歴を踏まえたメッセージにすることで、反応率は劇的に向上しました。

82名中31名から返信があり、そのうち24名が実際に予約を入れてくれました。

 季節需要を先読みした提案型マーケティング

季節性のデータを活用した施策も始めました。

例えば、4月下旬には、前年の5~6月にストレートパーマを利用したお客様全員に、「梅雨対策キャンペーン」の案内を送信しました。

「去年の梅雨時期にストレートパーマをご利用いただいた○○様へ。今年も梅雨入り前の今がおすすめです。4月中にご予約いただければ、トリートメントを無料サービスいたします」

このメッセージを受け取った42名中28名が、実際に5月末までに来店しました。

さらに嬉しかったのは、「去年のことを覚えていてくれたんですね」「ちょうど考えていたところでした」といった感謝の声を多数いただいたことです。

数字が証明した変革の成果

 リピート率60%から80%への飛躍

データ活用を始めて3ヶ月後、Aさんは改めて数字を集計してみました。

結果は予想以上のものでした。

新規客の2回目来店率は58%から75%に上昇。

3回目以降の定着率も大幅に改善し、全体のリピート率は60%から80%へと飛躍的に向上しました。

特に効果が大きかったのは、来店間隔が空きそうなタイミングでのフォローメッセージでした。

また、休眠顧客の掘り起こしも継続的に成果を上げていました。

3ヶ月以上来店していなかった82名のうち、最終的に48名が再来店。

その多くが、以前と同じペースで通うようになりました。

 月商30%アップという確かな手応え

リピート率の向上は、売上にも直結しました。

データ活用前の月商が平均150万円だったのに対し、3ヶ月後には195万円と30%の増加を記録しました。

新規集客のための広告費は変わっていません。

むしろ、既存顧客のリピート率向上により、新規集客への依存度が下がりました。

これまで月10万円かけていた広告費を7万円に削減しても、売上は順調に推移しています。

さらに、顧客単価も上昇しました。

来店サイクルが安定したことで、お客様も計画的にメニューを選ぶようになり、カラーリングとトリートメントのセット利用や、ヘッドスパの追加オーダーが増えたのです。

平均単価は6,500円から7,800円へと20%上昇しました。

まとめ

Aさんの美容室は、紙のカルテ300枚をGoogleスプレッドシートに入力し、簡単な関数で分析するという、誰でもできる方法で大きな成果を上げました。

3ヶ月来店がないお客様の自動抽出、季節需要の可視化、そしてLINEを使ったパーソナライズメッセージの配信。

これらの施策により、リピート率は60%から80%へ向上し、月商は30%増加しました。

特別な投資は一切必要ありませんでした。

使ったのは無料のGoogleスプレッドシートとLINE公式アカウントだけです。

必要だったのは、1週間かけてカルテをデジタル化する決断と、データから得られた気づきを行動に移す実行力でした。

「デジタルは苦手」と感じている美容室オーナーも多いかもしれません。

しかしAさんの事例は、高度な技術がなくても、お客様一人ひとりを大切にする気持ちとデータを組み合わせることで、大きな成果を生み出せることを証明しています。

今、棚に眠っている顧客カルテは、実は宝の山かもしれません。

その価値を引き出すために必要なのは、最初の一歩を踏み出す勇気だけなのです。