予測モデルがはじき出した結果は、専用の手法で分析すれば、その理由まで読み解けます。
「収入に対して借入が多いから」
「この商談は競合が強いから」
たしかに、もっともな説明です。
けれども、その説明を聞いたあと、私たちの心には、たいていもう一つの問いが残ります。
で、どうすれば結果が変わるのか?
たとえば、融資を断られた人が本当に知りたいのは、断られた理由の内訳よりも、「何を、どれだけ満たせば通るのか」ではないでしょうか。
理由を解き明かす説明があるなら、その先の「もし〜だったら、結果は変わっていた」に答える説明もあってよいはずです。
今回は、予測を評価して終わりにするのではなく、結果を変えるための「次の一手」を引き出す、そんな説明の考え方を紹介します。
Contents
- 「なぜ?」の説明だけでは、動けないことがある
- 理由が分かっても、次の一手が見えないことがある
- 人が本当に欲しいのは「解説」より「処方箋」
- そこで生まれる問い ——「もし〜だったら、どうなっていたか」
- 反実仮想の説明とは何か——「もし〜だったら」を計算する
- 結果がひっくり返る「最小の変更」を探す
- 「なぜ」の説明との違い
- だから説明が「行動できるアドバイス」に変わる
- 現場では、こう効く
- 与信:何を満たせば通るのか
- 解約防止:何をすれば引き止まるのか
- 品質・営業:どの条件を変えれば結果が変わるか
- 便利さの裏にある落とし穴
- 「変えられない要素」を持ち出しても意味がない
- 「最小の変更」が、現実には実行しにくいこともある
- 道は一つとは限らない
- 今回のまとめ
「なぜ?」の説明だけでは、動けないことがある

理由が分かっても、次の一手が見えないことがある

予測の理由を、後から手法で読み解けるようになったのは、大きな進歩でした。
「なぜこの予測なのか」が見えれば、少なくとも中身がブラックボックスのままよりは、ずっと納得して受け止められます。
ところが、理由が分かっても、そこで手が止まってしまう場面があります。
たとえば「この顧客の解約リスクが高いのは、利用頻度が下がっているからです」と示されたとします。
理由は分かった。しかし担当者が次に知りたいのは、「では、どうすればこのリスクを下げられるのか」です。
理由の解説は、そこまでは教えてくれません。原因を指し示すことと、打つべき手を示すことは、実は別のことなのです。
この隔たりは、思っている以上に深いものです。
原因が一つだと分かっても、その原因をどれだけ動かせば結果がひっくり返るのかは、理由の説明からは読み取れません。
「利用頻度が効いている」と言われても、頻度をどこまで戻せば安全圏に入るのかは別問題です。
理由を知ることと、目標を定めることのあいだには、もう一段の飛躍が必要なのです。
人が本当に欲しいのは「解説」より「処方箋」

考えてみれば、これは私たちの日常でもよくあることです。
体調を崩して病院に行き、「あなたの数値が悪いのは、運動不足と塩分の摂りすぎが原因です」とだけ言われて帰されたら、少し物足りない気持ちになるでしょう。
本当に欲しいのは、原因の解説ではなく、「では、何をどれだけ変えればよいのか」という処方箋のほうです。
営業の現場でも同じで、「この案件を失注しそうなのは、価格競争力が弱いからです」と言われるより、「あと何を詰めれば受注に近づくのか」を知りたい。
人は、原因の分析だけでは動けず、行動の指針を得て初めて動き出すのです。
そこで生まれる問い ——「もし〜だったら、どうなっていたか」

こうして、自然に一つの問いが立ち上がります。
もし、何かを変えていたら、結果は変わっていたのだろうか?
これは、私たちが普段から頭の中でやっている「たられば」の思考です。
「もし、あのとき見積もりをもう少し下げていたら、受注できていたかもしれない」
「もし、あの顧客にもう一度連絡していれば、解約されなかったかもしれない」
この「もし〜だったら」を、予測モデルに対してきちんと計算させる。それが、今回扱う「反実仮想の説明」と呼ばれる考え方です。
少し耳慣れない言葉ですが、中身は、この身近な「たられば」そのものです。
違うのは、精度です。
人間の「たられば」は、たいてい思い込みや後悔の混じった当てずっぽうです。
「値段さえ下げていれば」と悔やんでも、本当に値段が決め手だったのかは分かりません。
ところが予測モデルに計算させれば、無数の「もし」の中から、実際に結果を変えたはずの一手を、根拠を持って選び出せます。
感覚的な後悔を、検証された次の一手に変える。そこに、この考え方の値打ちがあります。
反実仮想の説明とは何か——「もし〜だったら」を計算する

結果がひっくり返る「最小の変更」を探す

反実仮想の説明がやっていることは、シンプルな一言でまとめられます。
「結果がひっくり返すために、何を、どれだけ変えればよいか」を探すことです。
試験にたとえてみましょう。
ある人が59点で、合格ラインの60点にあと一歩届かなかったとします。
このとき「なぜ落ちたのか」を分析するのが理由の説明です。
一方、「あと1点取れていれば合格だった」「その1点は、この問題を正解していれば届いた」と示すのが、反実仮想の説明です。
結果を変えるのに必要な、いちばん小さな変更を指し示す。それが「もし〜だったら」を計算するということなのです。
ここで大切なのは、「いちばん小さな変更」を探すという点です。
合格するだけなら、全問正解する必要はありません。あと1点、どこか一問を正解すれば十分です。
同じように、予測を変えるにも、あらゆる要素を大きく動かす必要はありません。
結果がちょうど境界線を越える、その最小限の一手を見つける。
だからこそ、反実仮想の説明は「あれもこれも変えなさい」という無理な注文ではなく、「まずはここを、これだけ」という、手のつけやすい具体策になるのです。
「なぜ」の説明との違い

ここで、二つの説明の違いをはっきりさせておきましょう。
「なぜ」の説明は、いわば過去と現在を向いています。
すでに出た結果に対して、その理由を分解して見せてくれます。
一方、反実仮想の説明は、未来を向いています。
「これから何を変えれば、結果が変わるのか」を教えてくれるからです。
同じモデルの同じ予測を相手にしていても、前者は「原因の地図」を描き、後者は「目的地までの道順」を描く。
似ているようで、果たす役割はまったく違います。
だから説明が「行動できるアドバイス」に変わる

この違いが、実務では決定的な差を生みます。
理由の説明は、受け手に「なるほど」という理解を与えます。
しかし反実仮想の説明は、受け手に「では、こうしよう」という行動を与えます。
「利用頻度が下がっているから解約リスクが高い」ではなく、「あの機能を月にあと二回使ってもらえれば、解約リスクは安全圏に入る」。
こう言われて初めて、担当者は具体的な打ち手に踏み出せます。
説明が、評価の言葉から、行動できるアドバイスへと姿を変えるのです。
しかも、この形の説明には、目標がはっきりしているという利点があります。
「月にあと二回」と数字で示されれば、施策を打ったあとに「達成できたか」を確かめられます。
行動につながるだけでなく、その行動の成否まで測れる。
理由の説明が「現状の診断」で止まるのに対し、反実仮想の説明は「目標」と「検証の物差し」までを一度に与えてくれるのです。
現場では、こう効く

与信:何を満たせば通るのか

反実仮想の説明が最も分かりやすく力を発揮するのが、審査の場面です。
融資の申し込みが通らなかったとき、「借入が多いから」という理由だけでは、申込者も担当者も次の手を打てません。
ところが「もし、他社からの借入をあと〇〇万円減らせていれば、承認の水準に届いていました」と示せれば、話はまったく変わります。
申込者には、次に何をすればよいかがはっきり見えますし、担当者も、断るだけでなく前向きな助言を添えられます。
判定を下すだけの仕組みが、改善の道を示す案内役に変わるのです。
この違いは、相手との関係にも効いてきます。
ただ「お断りします」と結果だけを告げられれば、相手には不信や不満だけが残ります。
しかし「ここをこう満たせば、次は通る可能性があります」と道筋まで示されれば、同じ「今回は不承認」でも、受け止め方はまるで違います。
反実仮想の説明は、断りの場面を、関係を断つ瞬間から、次につなぐ機会へと変える力を持っているのです。
解約防止:何をすれば引き止まるのか

マーケティングの現場でも、この考え方は強力です。
解約しそうな顧客のリストを受け取っても、「なぜ解約しそうか」だけでは、打ち手はぼんやりしています。
しかし反実仮想の説明があれば、一人ひとりについて「この顧客は、最初の一か月でこの機能に一度でも触れていれば、解約予測が大きく下がっていた」と分かります。
すると施策は具体的になります。
使い始めの時期に、その機能へ案内するひと押しを入れればよいのです。
値引きで慌てて引き止めるより、ずっと的を射た、費用のかからない一手が見えてきます。
品質・営業:どの条件を変えれば結果が変わるか

開発や生産、営業の現場にも、同じ発想が生きます。
品質検査で「不良になりそう」と判定された製品について、「もし、この工程の温度を〇度下げていれば、良品の範囲に収まっていた」と分かれば、それはそのまま製造条件の改善指針になります。
営業なら、受注確率が伸び悩む案件に対し、「もし、提案から契約までの期間をあと一週間縮められていれば、受注確率はぐっと上がっていた」といった形で、詰めるべき点が具体的に見えてきます。
原因を眺めるだけだった分析が、次に手を動かすべき場所を教えてくれる道具に変わるのです。
便利さの裏にある落とし穴

「変えられない要素」を持ち出しても意味がない

ここまで読むと万能に思えるかもしれませんが、反実仮想の説明には気をつけるべき落とし穴があります。
第一に、変えられない要素を持ち出しても、何の役にも立ちません。
「もし、年齢が十歳若ければ」「もし、過去の取引履歴がなければ」と言われても、本人にはどうしようもない。
「もし〜だったら」の中身が、当人の力で変えられるものでなければ、それは行動につながるアドバイスにはなりません。
説明として成立していても、実用としては空振りなのです。
良い反実仮想の説明は、変えられる要素にきちんと目を向けている必要があります。
さらに、変えられない要素を根拠にした助言は、実用の空振りにとどまらず、公平性の問題にもなりえます。
もし審査の説明が、本人にはどうにもできない属性を持ち出していたら、それは「あなたは何をしても通らない」と告げているに等しく、受け手を深く傷つけます。
だからこそ、反実仮想の説明を使うときは、「これは本人が実際に手を打てることか」を最初に確かめる必要があるのです。
「最小の変更」が、現実には実行しにくいこともある

第二に、計算上は最小の変更でも、現実には実行が難しいことがあります。
たとえば「もし、月の利用回数をあと二十回増やせば」という一手が、理屈のうえでは最短だったとしても、その顧客にとって現実離れした要求なら、絵に描いた餅にすぎません。
数字のうえで「いちばん小さな変更」であることと、現場で「いちばん実行しやすい一手」であることは、必ずしも一致しないのです。
示された一手が、実際に踏み出せる現実的なものかどうかは、人間の側で見極める必要があります。
生産現場を思い浮かべると分かりやすいでしょう。
「もし、この工程の温度を五度下げていれば良品だった」と示されても、その温度が別の品質を保つために必要なら、単純には下げられません。
一つの数字を動かせば、別のところに影響が出る。現実の現場は、要素どうしが複雑に絡み合っています。
反実仮想の説明は、あくまで一つの断面を切り取った提案であり、現場全体の事情まで織り込んでくれるわけではない。この前提を忘れないことが大切です。
道は一つとは限らない

第三に、結果を変える道は、たいてい一つではありません。
「もし〜だったら」の答えは、一通りに定まるとは限らず、複数の道筋があるのが普通です。
借入を減らす道もあれば、収入を増やす道もある。ある機能の利用を促す道もあれば、別の接点を増やす道もある。
反実仮想の説明が一つの案を示したとき、それを「唯一の正解」と思い込むと、かえって選択肢を狭めてしまいます。
示された一手は、あくまで有力な候補の一つ。
そう捉えて、複数の道の中から現実に合ったものを選ぶ姿勢が求められます。
むしろ、道が複数あることは弱点ではなく、強みと捉えるべきかもしれません。
一つの道が難しくても、別の道が残っているからです。
「借入を減らすのは難しいが、収入を増やす方向なら手が打てる」というように、相手の事情に合わせて選べる余地がある。
反実仮想の説明を、たった一つの正解を押しつけるものではなく、複数の選択肢を照らし出す地図として使う。
それが、この技術との賢い付き合い方です。
今回のまとめ

予測モデルは長らく、結果を弾き出すこと、そして分析によってその理由を明らかにするところまでを役割としてきました。
しかし、私たちが本当に前に進むために必要なのは、しばしば理由の解説そのものではなく、「では、どうすれば結果が変わるのか」という次の一手です。
反実仮想の説明は、その一手を計算し、予測を「評価して終わり」から「次の行動」へとつなぎ直してくれます。
この考え方が優れているのは、私たちが日々やっている「あのとき、ああしていれば」という自然な思考を、そのまま予測モデルに引き受けさせる点にあります。
判定を下すだけの裁判官ではなく、次の一手を授ける参謀へ。モデルの役割は、そこまで広がりうるのです。
ただし、その一手が本当に価値を持つのは、当人の力で変えられて、現実に踏み出せて、複数ある選択肢の中から選ばれたときだけです。
「もし〜だったら」に答えてくれる説明を上手に使いこなすとは、示された一手を鵜呑みにせず、変えられるか・実行できるか・ほかに道はないかを見極めながら、次の行動へ翻訳していくこと。
そのとき予測モデルは、過去を裁く道具から、未来を切りひらく相棒へと変わっていくのではないでしょうか。

