ある営業部で、こんなことが起きました。
ベテランの田中さんと、若手の佐藤さん。過去1年の担当案件はどちらも100件です。
成約率を集計すると……
- 田中さんが25%
- 佐藤さんが35%
数字の上では、「田中さん25%<佐藤さん35%」と、佐藤さんの圧勝に見えます。
ところが、案件を「新規のお客様」と「既存のお客様」に分けて集計し直すと、様子が変わります。
- 新規案件の成約率:田中さん20%>佐藤さん15%
- 既存案件の成約率:田中さん45%>佐藤さん40%
どちらの案件でも、田中さんのほうが高いのです。
全体で見ると佐藤さんが勝ち、分けて見ると田中さんが勝つ。
集計ミスではありません。両方とも正しい数字です。
なぜこんなことが起きるのか。そして、どちらを信じればよいのか。順番に見ていきます。
逆転のカラクリ
答えは、任されている案件の中身にあった
種明かしをすると、2人が任されている案件の中身が違っていました。
- 田中さんの100件は、新規80件・既存20件
- 佐藤さんの100件は、新規20件・既存80件
上司が、難しい新規開拓をベテランの田中さんに集中して任せていたのです。
新規のお客様は、既存のお客様よりはるかに決まりにくいものです。その決まりにくい案件を8割抱えていたのが田中さんでした。
全体の成約率が低くなるのは、腕の問題ではなく、任されている仕事の中身の問題です。
計算を確認してみます。
- 田中さん:新規80件×20%で16件、既存20件×45%で 9件、合計25件の成約
- 佐藤さん:新規20件×15%で 3件、既存80件×40%で32件、合計35件の成約
新規でも既存でも田中さんが上回りながら、合計では逆転が起きます。
両方に影響する要因「交絡因子」
ここでの「案件が新規か既存か」のように、比べたいものと、結果の、両方に影響している要因があると、こうした逆転や見誤りが起きます。
分析の世界では、これを交絡因子と呼びます。
案件が新規か既存かは、「どちらの営業が担当するか」に影響していました。難しい案件はベテランに任されるからです。
同時に「成約するかどうか」にも影響していました。新規は決まりにくいからです。
この両方に影響していることがポイントです。
ここで、大事な注意があります。
この話は「2人の成約率の差に意味がない」ということではありません。差は事実です。
ただ、その差は営業の実力差を表していない。
数字が正しいことと、読み方が正しいことは、別の問題なのです。
同じ見誤りは、あちこちで起きている
数字の差を、そのまま実力や効果として読んでしまう。
この見誤りは、営業評価に限らず、ビジネスのあちこちで起きています。
よくある3つの場面を見てみます。
場面1:使っている会社と、使っていない会社を比べる
新サービスの利用企業と非利用企業で年間取引額を比べたら、利用企業が30%高かった。
「導入すると取引額が30%伸びます」と言いたくなります。
しかし、新しいサービスを早く使い始めるのは、もともと取引の大きいお得意様です。
30%の差の大部分は、サービスを使う前からあった差です。
サービスの効果はあるかもしれませんが、それが30%でないことは確かです。
場面2:施策の前と後を比べる
キャンペーン期間の売上を直前の期間と比べて「+20%」。
しかし前後の比較では、「時期」そのものが差の原因になり得ます。
気温、ボーナスの時期、競合の動き、同時にやっていた他の施策。期間の間に変わったものすべてが、+20%の中に混ざっています。
そのうち何割がキャンペーンの手柄なのかは、この比較だけでは分かりません。
場面3:導入した店と、していない店を比べる
新しい販促を都市部の店舗から始めて、導入店と未導入店の売上を比べる。
導入店が高くても、都市部の店はそもそも売上の高い立地です。
どの店から始めるかという選び方が、最初から差を作っています。
3つに共通するのは、比べた2つのグループが、施策や担当者とは関係のない理由で、最初から違っていたことです。
どの条件を揃えて、どの条件を揃えないか
「条件を揃えて比べる」が基本
最初から違いがあるなら、その条件を揃えて比べればよい。これが基本の対処です。
- 営業の例なら、新規は新規同士、既存は既存同士で比べる
- 場面1なら、もともとの取引規模が近い会社同士で比べる
それだけで、数字はぐっと実態に近づきます。
ただし、ここで誤解されやすいことがあります。
思いつく限りの条件を揃えれば正確になる、というわけではありません。
揃えてはいけないものを揃えると、今度は逆方向に結果が壊れます。
見分け方は「先に決まっていたか、後で起きたか」
見分け方はシンプルです。
揃えるべきなのは、先に決まっていた条件です。
案件が新規か既存か、お客様の規模、店の立地。これらは担当割りや施策より前から決まっていて、グループの偏りを生んでいた張本人です。
揃えてはいけないのは、後で起きたことです。
施策を打った結果として動いた数字を揃えてしまうと、施策の働きそのものを消してしまいます。
揃えすぎると、今度は結果が壊れる
途中経過を揃えると、効果が消える
ある会社が、Web広告の効果を検証しました。
このとき、広告を見たかどうかに加えて、「サイトへの訪問回数」も条件として揃えました。訪問回数は購入に強く関係する重要な数字だから、という理由です。
結果、広告の効果はほぼゼロと出ました。しかし、これは誤りです。
広告の役割は、そもそもサイトに来てもらうことでした。
「広告を見る → サイトに来る → 買う」という順番で働いていたのです。
ここで訪問回数を揃えると、「同じ回数サイトに来た人同士」の比較になります。
広告の一番の働きを消した状態で測っているので、効果が見えなくなって当然です。
このように、原因から結果へ向かう「途中経過」にあたる数字を揃えると、効果は実際より小さく見えます。
結果で絞り込むと、ないはずの関係が生まれる
もう1つ、注意したい場面があります。
ある会社が社員データを分析したところ、「学歴が高い社員ほど、実務の評価が低い」という結果が出ました。
しかしこれは、採用を通った社員だけを見ているために生じた、見せかけの関係でした。
この会社の採用は、学歴か、面接で見る実務的な力の、どちらかが高ければ通りやすい仕組みでした。
すると入社した人の中には「学歴は高いが実務は普通」の人と「学歴は普通だが実務が強い」人が混ざります。
入社者だけを見れば、学歴と実務評価は逆方向に見えます。応募者全体で見れば、そんな関係はありません。
「〜を通った人だけ」「〜を続けている人だけ」に対象を絞って分析するときは、この見せかけの関係を疑ってください。
迷ったら、3つの箱に仕分ける
分析で「この条件、揃えるべきか?」と迷ったら、次の3つの箱に仕分けてみてください。
箱1:先に決まっていたこと
案件が新規か既存か、お客様の規模、店の立地、過去の取引実績。これらは揃える候補です。
特に、担当割りや案内先を決めるときに使った基準は、必ず揃えてください。
「難しい案件はベテランに」
「お得意様からご案内」
「都市部から導入」
このような決め方こそが、最初の差を作った張本人です。
箱2:後で起きたこと
サイト訪問、資料請求、問い合わせ、商談化。
施策の結果として動いた数字は、揃えません。
効果を小さく見せてしまう原因になります。
箱3:結果そのもの、結果に近いこと
成約したかどうか、続けているかどうか、アンケートに答えたかどうか。
これらで対象を絞り込むと、見せかけの関係が生まれます。
迷ったときの問い
判断に迷ったら、こう問うてください。
「これは、先に決まっていたことか。それとも、後で起きたことか」
先ならば箱1、後ならば箱2か3です。
なお、箱1に入れたくても、データがないこともあります。
その場合は無理に代わりのもので済ませず、「この点は条件を揃えられていません」と一言添えるほうが、読み手の判断を誤らせません。
今回のまとめ
冒頭の2人の営業の実力を比べたいのであれば、全体の数字ではなく、新規・既存に分けた数字です。
案件の中身の違いが分かっている以上、それを揃えた比較のほうが「知りたい差」に近くなります。
もし全体の成約率だけで評価していたら、難しい案件を引き受けている人ほど評価が下がる、という逆立ちした人事になっていたはずです。
対処の基本は、技術的に難易度の高いものを要求していません。
比べたいものと結果の両方に影響している要因を見つけて、条件を揃えて比べる。ただし、何でも揃えればよいわけではありません。
後で起きたことを揃えると効果は消え、結果で絞り込むと、ないはずの関係が現れます。
大事なのは条件の数ではなく、それぞれが「先に決まっていたことか、後で起きたことか」です。
そして、実務で最初に確認すべきは「そもそも、この2つのグループはどうやって分かれたのか」です。
担当の割り振り、案内先の選び方、導入の順番。
その決め方に使われた基準は、ほぼ確実に、最初の差を作っています。
効果や実力を論じる前に、まずその基準を書き出してみる。
ここから始めるだけで、防げる見誤りはかなり広がります。

