第506話|施策の効果を語る前に、1枚の図を描く
会議の空回りを止める「因果ダイアグラム」

第506話|施策の効果を語る前に、1枚の図を描く会議の空回りを止める「因果ダイアグラム」

SNSは売上に効いているのか

この議題で、会議が2時間空回りした会社があります。

  • 営業は「若いお客様が明らかに増えた。効いている」と言う
  • 経営企画は「売上が伸びた時期にたまたま投稿も多かっただけでは」と返す
  • データ分析の担当者は「投稿数と売上の相関は弱いです」と数字を出す

誰も嘘は言っていません。それなのに、議論はまったく噛み合わない。結局その日は「引き続き検討」で終わりました。

こうした会議に足りないのは、データでも、分析の腕でもありません。

足りないのは、全員の頭の中にある「何が何に効くと思っているか」を、目に見える形にすることです。

今回は、そのための道具である「因果ダイアグラム」を紹介します。

難しい理論は出てきません。四角と矢印だけで描ける、会議のための1枚の図です。

議論が噛み合わないのは、頭の中の地図が違うから

 全員が、別の地図で話している

施策の効果をめぐる議論では、参加者それぞれが頭の中に「地図」を持っています。

何が原因で、何が結果か。どこを通って効くのか。

ただし、その地図はふだん口に出されません。出てくるのは「効いている」「効いていない」という結論だけです。

地図が違う者同士が結論だけをぶつけ合えば、噛み合わないのは当然です。冒頭の会議で起きていたのは、まさにこれでした。

 因果ダイアグラムとは何か

因果ダイアグラムとは、ビジネスに関係する要因を四角で書き出し、影響の向きを矢印で結んだ1枚の図です。

SNS投稿 → 新規のお客様の来店 → 売上」のように、原因から結果へ矢印を引いていきます。

道具としての価値は、正しい図を描けることではありません。

描いてみると、人によって図が違うことが分かる。 そこにあります。

3人の図は、3枚とも違っていた

 描いてもらったら、前提のずれが見えた

冒頭の会社(飲料メーカーのE社とします)では、後日、進行役がホワイトボードに四角と矢印で図を描くことを提案しました。

3人がそれぞれ描いた図は、こうなりました。

  • 営業の図:SNS投稿 → 若い新規のお客様の来店 → 売上。SNSは新しいお客様の入口だ、という地図です。
  • 経営企画の図:新商品の発売 → SNS投稿の増加、そして 新商品の発売 → 売上。E社では新商品が出るたびに投稿が増え、売上も伸びます。つまり投稿と売上は、どちらも新商品に動かされて一緒に上下しているだけで、投稿から売上への矢印はない、という地図です。
  • 分析担当の図:SNS投稿 → 売上。この1本の矢印だけを、投稿数と売上の相関で検証していました。

並べてみると、対立の正体がはっきりします。

  • 営業は「新規のお客様」という中継地点を見ている。
  • 経営企画は「新商品」という、投稿と売上の両方に効く要因を見ている。
  • 分析担当は、どちらの前提も置かずに直通の矢印だけを測っていた。

3人は同じ問いを議論していたのではなく、3枚の違う地図を見ながら話していたのです。

 図が揃った瞬間、次にやることが決まった

3枚の図を1枚に統合すると、議論は「効くか、効かないか」から「どの矢印を確かめるか」に変わりました。

確かめることは2つに絞られました。

  • 1つ、新商品の影響を分けるために、新商品発売のない月だけで投稿と売上の関係を見る。
  • 2つ、営業の地図を検証するために、売上を新規のお客様と既存のお客様に分けて、投稿が新規の来店に効いているかを見る。

2時間空回りした議題が、図を描いてからは30分で「次に調べること」の合意に至りました。

分析の手法は何も変わっていません。変わったのは、前提が見えるようになったことだけです。

なお、経営企画の図に出てきた「投稿と売上の両方に効く新商品」のような要因は、前回の記事で紹介した、比較を狂わせる第三の要因(交絡因子)そのものです。

因果ダイアグラムを描くと、こうした要因が「1つの四角から2本の矢印が出ている形」として、目で見て発見できます。

描き方の基本ルール

 四角にするのは3種類

図に書き出す四角は、次の3種類だと考えると迷いません。

  • 1つ目は、自分たちが動かせること。SNS投稿、値引き、営業訪問、チラシ。施策の候補です。
  • 2つ目は、最終的に知りたい数字。売上、来店数、成約数。図の右端に置きます。
  • 3つ目は、自分たちでは動かせないが、影響していそうなこと。季節、気温、競合の動き、新商品の発売、ボーナスの時期。ここを書き出せるかどうかで、図の価値が決まります。

数は、全部で7個程度までにしてください。それ以上は描けないのではなく、議論できないからです。

細かい要因は、主要な図が固まってから追加すれば十分です。

 矢印の向きに迷ったら、2つの問いで決める

矢印を引くときの判断は、2つの問いに集約されます。

第一の問いは、「こちらを変えたら、あちらは変わるか」。

投稿を増やしたら来店は変わるか。変わると思うなら矢印を引きます。逆に、来店が増えたら投稿は変わるか。担当者が張り切って投稿を増やすなら、逆向きの矢印もありえます。両方ありうるなら、両方描いて構いません。

第二の問いは、「先に決まるのはどちらか」。

時間の順番が明確なら、矢印は前から後ろにしか引けません。新商品の発売日は投稿より先に決まっています。だから矢印は新商品から出る一方向です。

そして、自信のない矢印は消さずに「」を付けて残してください。この「」こそが図の成果物です。

ホワイトボード1枚で始める

実際の進め方は、会議の場で15分あれば足ります。

まず、知りたい数字(売上など)を右端に書きます。

次に、議論している施策を左端に書きます。

それから参加者に問いかけます。

この2つの間、あるいは両方に効いていそうなものは何ですか

出てきた要因を四角で追加し、矢印を引いていきます。

大事な運用が1つあります。

矢印について意見が割れたら、決着をつけずに「?」を付けることです。

図を完成させることが目的ではありません。どこで意見が割れているかを見つけることが目的です。

そして「」の付いた矢印が、そのまま次に分析すべきテーマになります。

E社の「投稿→売上」がまさにそれでした。

描いた図は、写真に撮って議事録に残してください。

分析の結果が出たら、「」を消したり矢印を描き直したりして更新します。

図が育っていくこと自体が、その組織の学びの記録になります。

今回のまとめ

因果ダイアグラムは、分析の専門家のための道具だと思われがちです。

しかし実務での一番の使い道は、その手前にあります。関係者の頭の中にある地図を全員の目の前に出し、どこで前提がずれているのかを見つける。

つまり、分析の準備である以上に、合意形成の道具です。

効果検証がうまくいかない原因の多くは、計算の間違いではなく、前提のずれです。

何が何に効くと考えているのかが揃わないまま数字だけを積んでも、E社の会議のように空回りします。逆に、前提さえ図で揃えば、確かめるべきことは驚くほど少なく、具体的になります。

次に施策の効果で議論が空回りしたら、ホワイトボードに四角を2つ描いて、こう聞いてみてください。

この間に、何がありますか

その15分が、2時間の会議より多くのことを決めてくれるはずです。