毎週月曜の午前中、先週分の売上を集計して、店長会議の資料を作る。
多くの会社で、誰かがやっている仕事です。
「集計を自動化すれば楽になる」とよく言われます。それは間違いではありません。
ただ、ある会社で起きた変化は、楽になることとは少し違いました。
変わったのは作業時間ではなく、会議の中身でした。
今回は、5店舗の週次報告を担当していた営業企画の話を通して、「聞けば出る」仕組みが何を変えるのかを説明します。
出発点――月曜午前は、集計表の作り直し

5店舗分、毎週同じ表を作る

弁当、おにぎり、飲料、デザートを扱う小売チェーン。
本部で営業企画を担当するEさんは、D店を含む5店舗の週次報告を受け持っています。
毎週月曜の午前中、5店舗のPOSデータを集めて、店舗別売上、商品別売上、曜日別売上、前週比の4種類の表とグラフを作ります。
表計算ソフトで、およそ2時間。
先週と同じ形の表を、今週の数字で作り直す。それを、毎週繰り返していました。
会議で出る質問は、いつも「表にない切り口」

月曜の午後は、店長会議です。
資料を配って説明を始めると、D店の店長が言いました。
「うちのおにぎり、曜日別だとどう?」
表は、店舗別と商品別、そして曜日別はカテゴリ単位。店舗×商品×曜日の組み合わせはありません。
「持ち帰って確認します」
別の店長からは、「デザートだけ、先月と比べると?」
これも、持ち帰りです。
毎回、2〜3件。会議で出る質問は、いつも、表にない切り口でした。
答えが出るのは、翌週

持ち帰った質問に答えるのは、翌週の会議です。
ところが、1週間たつと、聞いた店長の関心は次の話題に移っています。
「あ、そうだったね」
それで終わりです。
Eさんは、先回りすることにしました。よく聞かれる切り口を足して、表を4種類から12種類に増やしたのです。
資料は、12ページから30ページになりました。
結果は、はっきりしていました。
誰も読まない。質問は減らない。会議の時間だけが伸びる。
理屈――集計表は「決まった問い」への答え

問いは、答えを見てから生まれる

集計表は、「決まった問い」への答えです。
「店舗別の売上は?」という問いに対する表。「商品別は?」という問いに対する表。
ところが、現場の問いは、答えを見てから生まれます。
全体の数字を見て「おにぎりが落ちている」と気づく。そこで初めて、「曜日別だとどう?」という問いが出る。
その答えを見て、「水曜と木曜か。その2日の他の商品は?」と、また次の問いが出る。
問いは連鎖します。そして、連鎖の2つ目以降は、事前に決められません。
作り直しの原因は、集計の手間ではなく、問いを事前に固定できないことでした。
表を増やしても、問いは追いつかない

問いを事前に固定できないなら、あらゆる問いに備えて表を増やせばよいのか。
Eさんの12種類は、その試みでした。
しかし、問いの組み合わせは、期間、対象、指標、切り口のかけ算で、無数にあります。
12種類でも、5店舗×20商品×7曜日の組み合わせには遠く及びません。
そして、表を増やすほど、本当に見たい1枚が埋もれます。
「会議中に、その場で表計算ソフトを開いて集計し直せばよいのでは」と思うかもしれません。
5店舗分のデータを開き、条件を組み、表を整える。店長の問いを集計の条件に翻訳する作業が、毎回挟まります。会議は待ってくれません。
必要なのは、「たくさんの答え」ではありません。
問いが出たその場で、答えが返る仕組みです。
対処――問いを4つに分解して、その場で呼び出す

「期間・対象・指標・出力形式」

店長の問いを、分解してみます。
「うちのおにぎり、曜日別だとどう?」
期間は、先週。対象は、D店のおにぎり。指標は、売上。出力形式は、曜日別の表。
「デザートだけ、先月と比べると?」
期間は、先月と今月。対象は、デザート。指標は、売上。出力形式は、2期間の比較。
数字を求める問いは、この4つに分解できます(「なぜ落ちたのか」のように理由を求める問いは、別の扱いになります)。
そして、4つが決まれば、必要な集計処理は同じです。処理は、期間・対象・指標・出力形式を受け取って、表を返すだけ。
日本語の問いを4つに分解する役を生成AIに渡し、集計は処理に固定する。
4つのどれかが特定できない問いには、「対象が特定できません。店舗はどこですか」と聞き返す形にしておきます。
問いが変わっても、処理は変わりません。変わるのは、渡す条件だけです。
変わったのは、月曜の2時間より会議だった

Eさんの会社では、分析担当のFさんが集計処理を作り、会議室の画面から日本語で質問できるようにしました。
月曜午前の2時間は、20分になりました。データの取り込みと、数字の確認だけです。
ここまでは、予想どおりの効果でした。
予想と違ったのは、会議です。
D店の店長が「おにぎり、曜日別だと?」と聞くと、その場で表が出ます。
「水曜木曜が0か。じゃあ、その2日の他の商品は?」
その場で出ます。
1つの答えが次の問いを生み、その場で返る。連鎖が、会議の中で回り始めました。
持ち帰りは、月に4件ほどあったのが0件に。会議で出る問いの数は、週2〜3件から10件を超えるようになりました。
資料は、30ページから4ページに戻りました。表は最初の4種類だけ。残りは、会議の場で聞けばよいからです。
会議は、「報告を聞く場」から「問いを重ねる場」に変わりました。
集計の自動化が変えたのは、Eさんの作業時間ではなく、店長たちの問いの数でした。
今回のまとめ

毎週同じ集計表を作り直す原因は、集計の手間ではなく、問いが事前に固定できないことにあります。表を増やしても追いつきません。
対処は、問いを「期間・対象・指標・出力形式」の4つに分解し、集計処理は固定して、条件だけを変えて呼び出すこと。
その仕組みが変えるのは、作業時間だけではありません。会議の場で問いが重ねられるようになり、報告を聞く場が、問いを重ねる場に変わります。
会議で問いを出す側にも、持ち帰ってほしいことが1つあります。
「その質問は、期間・対象・指標・出力形式で言うと何ですか」
「いつの、何の、どの数字を、どんな形で」。こう言える問いは、その場で答えが返ります。
こう言えない問い――「なぜ落ちたのか」――は、別の扱いが要ります。それは、また別の話です。
よくある質問
Q. 集計表を自動化しても、会議の質問が減らないのはなぜですか?
集計表は「決まった問い」への答えで、現場の問いは答えを見てから生まれるからです。
全体の数字を見て初めて「曜日別は?」という問いが出て、その答えを見て次の問いが出ます。
連鎖の2つ目以降は事前に決められないため、表を速く作っても、表の種類を増やしても、その場の問いには追いつきません。
Q. 質問を「期間・対象・指標・出力形式」に分解するとは、どういうことですか?
「いつの(期間)、何の(対象)、どの数字を(指標)、どんな形で(出力形式)」の4つに分けることです。
「うちのおにぎり、曜日別だとどう?」なら、先週・D店のおにぎり・売上・曜日別の表、となります。
4つが決まれば必要な集計処理は同じで、条件を変えて呼び出すだけで済みます。日本語の問いをこの4つに分ける役を、生成AIに任せられます。
Q. 集計表の種類を増やせば、会議の質問に備えられますか?
備えきれません。問いの組み合わせは期間・対象・指標・切り口のかけ算で無数にあり、表を増やすほど本当に見たい1枚が埋もれます。
本文の例では、4種類から12種類に増やしても、質問は減らず、会議の時間だけが伸びました。
必要なのは、たくさんの答えではなく、問いが出たその場で答えが返る仕組みです。
Q. 「聞けば出る」仕組みを入れると、会議はどう変わりますか?
持ち帰りが減るだけでなく、問いの数が増えます。
1つの答えが次の問いを生み、その場で返るため、会議の中で問いの連鎖が回り始めます。
本文の例では、持ち帰りが月4件から0件になり、会議で出る問いは週2〜3件から10件超に増えました。報告を聞く場が、問いを重ねる場に変わります。

