第52話|ディープラーニングと唱えてもデータ活用は実現しないという現実

第52話|ディープラーニングと唱えてもデータ活用は実現しないという現実

最近驚くほどに、猫も杓子もディープラーニング! ディープラーニング!! ディープラーニング!!! と唱えている気がします。少なくとも、私の周りでは非常に多いです。

数理モデルの一つに過ぎないディープラーニングが、すべてを解決するかのようです。数理モデルにも用途によって色々な種類があり、ディープラーニングだけで解決するわけでもありません。

例えば、故障の原因を追究する要因分析にディープラーニングを使うのは無理がありますし、スケジューリングや予算配分などの最適化問題(数理計画法)にディープラーニングを使うことは困難でしょう。分類問題(例:人物画像から性別を当てる、など)あたりであれば、ディープラーニングの相性も良いかもしれませんが……

それはさておき、ディープラーニングが素晴らしい技術であることには変わりありません。

でも、現実はどうでしょうか?

このプラットフォームはディープラーニングが搭載され〇〇できます! と言ったところで、「で? どうした……」という感じではないでしょうか。

何やらすごそうだけど、何がどう凄いのか不明。ディープラーニングが使われていることで、何が嬉しいのかもわからない。ディープラーニング搭載の非搭載で、ビジネスインパクトが程度あり、具体的に売上が〇〇円アップしコストが〇〇%ダウンし営業利益が〇〇%に改善された! みたいな話が少なすぎる。

非常に嫌な予感がします。10数年前のSOM(自己組織化マップ)やらNN(ニューラルネットワーク)やらSVM(サポートベクターマシン)やら騒がれた時代を彷彿とさせます。

要するに、何やら面白いことやっているようだけど、冷静に考えてみるとビジネスインパクトが不明瞭。そして、いつしか誰も見向きもしなくなる。

そうならないために大事なことがあります。ディープラーニングに限らず、分析手法を確実にビジネスに活かすのに大事なことです。今回は、その分析手法を確実にビジネスに活かすのに大事なことについてお話し致します。

ディープラーニングだの、隠れマルコフだの、トピックモデルだの、カッコいい名前の付いた分析手法先行になっている場合、ビジネス活用で失敗しないためにも、参考にして頂ければと思います。

ディープラーニング祭りだ!

あるECサイトを運営している企業です。

ECサイトは、比較的きれいなデータが取得しやすく、さらに自動化もしやすいという特徴があります。そのため、ABテストと呼ばれるようなWEBコンテンツの出し分けをほぼ自動的に最適化する方法や、個客に応じてサイトに表示するコンテンツを変えたり、商品のレコメンドによるクロスセルなどもほぼ自動化で可能です。

要するに、データ活用との相性が非常に良い。行動ベースのデータ活用のため、消費者インサイトのような心理的な要因を扱うのが難しいという点はありますが。

そのECサイトのデータ分析担当者が、とっても統計モデルや機械学習モデルといったものが大好きで、ある時を境に、何でもかんでもディープラーニング病にかかってしまいました。

業務効率ということで、面倒な手作業をサポートするようなディープラーニングを活用したシステム構築を、まずは目指しました。ECサイトがデータと相性が良いと追っても、まだまだ面倒な手作業な部分はたくさんあります。

AI(人工知能)ベンチャーの力や、大学の先生の力を借りて、何とかいくつかのディープラーニング搭載の簡易システムを、PoC(概念実証)として試しに作りました。

ディープラーニングなどのニューラルネットワーク系のモデルを学習する時間は半端ありません。コンピューターの処理速度が速くなったとは言え、それなりに時間がかかります。1日1回学習しモデルを構築し、利用するときは学習済みのモデルを利用します。

素晴らしいのができた! と思ったのですが、現場の担当者からの評価はいまいちでした。

Excel VBA(マクロ含む)による効率化に負けた悲しさ……

分析担当者がディープラーニングを検討している中、業務効率ということで、現場ではExcel VBA(マクロ含む)で作った便利ツールを作っていました。

現場担当者が、自分たちの業務を効率化するために作ったツールのため、Excel VBA(マクロ含む)で作った便利ツールは、大いに使っていました。

例えば、「新商品のカテゴリーの自動振り分け」という機能。

ECサイトで売る新商品のカテゴリー付けを自動でしてくれる機能です。たまたま、ディープラーニングでも、Excel VBA(マクロ含む)でも同じ機能を作っていました。

で、精度はどうなのか? というと、若干ディープラーニングのほうが良いぐらいで、作業そのものの時間を大きく左右するものではありませんでした。

わずかでも精度が高まったのですから、現場の担当者からの評価が良くてもよい気がしますが、そうではありませんでした。

Excel VBA(マクロ含む)で作った便利ツールとディープラーニングで作った簡易システム、何が違ったのでしょうか?

誰が何をするのか? が見えないと使われない

簡潔に言うと、Excel VBA(マクロ含む)で作った便利ツールは、誰が何をするのかが見えていた。しかし、ディープラーニングで作った簡易システムは、誰が何をするのかが見えていない。

Excel VBA(マクロ含む)の便利ツールを作ったのが、現場の人なので当然といえば当然です。具体的な作業が見えた上で、その作業の負荷を軽減するために作っています。

一方、ディープラーニングで作った簡易システムは、現場とは関係のない分析担当者が中心になって作ったものです。具体的な作業が見えていたとはいえない状況でした。

データ活用が上手くいく上手くいかないの壁として、この「誰が何をするのかが見えていたかどうか」が、非常に大きな壁として存在しています。

特に重要なのが「誰」の部分です。「誰の見えない」つまり「人の見えないデータ活用」は、結構上手くいかない印象があります。特に、人の作業の関わるデータ活用は、「誰」が見えないと、そもそも動けないケースが多いです。

今回のまとめ

今回は、ディープラーニングと唱えてもデータ活用は実現しないという現実という、お話しをしました。

最近、ビッグデータやAI(人工知能)の流行とともに、その要素技術の一つであるディープラーニングに注目が集まっています。

あたかも、ディープラーニングさえ取り入れれば、すべての問題が活躍するのではないかと錯覚するぐらいです。

ディープラーニングに限らず、データ活用が上手くいくかどうかは、どのような分析技術を使うか以上に大事なことがあります。

それは、「誰が何をするのかが見えていたかどうか」ということです。特に、営業やマーケティングなどの人の介在するデータ活用は、上手くいくかどうかの重要なファクターです。

技術先行、分析先行、見える化先行になっていましたら、一度立ち止まって「誰が何をするのかが見えていたかどうか」を考えていただければと思います。「誰が何をするのか?」が見えないと、そのデータ活用が機能しないケースが多いからです。

そのためには、データ活用する現場との対話が非常に重要になります。ぜひ、面倒くさがらずに「誰が何をするのか?」が見えるほど、データの先にいる人を感じられるほどの対話をしていただければと思います。