第95話|データ分析の属人化を阻止した「データ分析プロジェクトの軌跡の見える化」という地味な活動

第95話|データ分析の属人化を阻止した「データ分析プロジェクトの軌跡の見える化」という地味な活動

前回、「データ活用が上手くいったけど、次に大きな壁があった! データ分析・活用ナレッジの蓄積・共有・継承」というお話しをしました。

多くの業務と同じように、データ分析という業務も属人化しやすいという欠点があります。そこが、データ分析人財育成やデータ分析活用上の、壁の1つとして立ちはだかるかもしれません。

では、どうすべきか?

正直、私の中で確実にこうやればOKみたいなものはありません。私がよく実施するのは、次の2つの取り組みです。

  • ①データ分析プロジェクトの軌跡の見える化
  • ②失敗事例の蓄積と共有

ナレッジマネジメントやナレッジシェアと言えるほどのものではありませんが、ある程度の成果は出ると思います。

今回は、①の「データ分析プロジェクトの軌跡の見える化」についてお話しをいたします。

膨大な宝の山が目の前にあったのでした

大学卒業後、私が最初に配属されたのは、国のあるデータ分析専門の部署でした。

長い伝統と歴史があるということと、今ほど電子化が進んでいないということもあり、すべてのデータ分析の検討結果や分析結果が、紙資料として残されていました。

この紙資料は膨大なもので、国家公務員ならではのクセのようなものかもしれませんが、1つ1つの打ち合わせなどで利用した資料から、ちょっとしたメモ(議事録のようなもの)まで、時系列で残っていました。

当時の私は、これはスゴイと、素朴に思いました。

ある不幸な40代管理職の異動のあいさつ

国家公務員の世界は、2,3年で異動します。そのため、定期的に異動のあいさつを聞く機会がありました。

私のいた部署の場合、他の部署に異動し数年後には戻ってくる、ということを繰り返しているようでした。戻ってくるタイミングで昇任していました。

若いときにいた部署に錦を飾る、そのような感覚なのかもしれません。現実は錦というほど、生易しくはないかもしれませんが……

ある不幸な40代管理職の方が、他の部署に異動するとき、以下のような挨拶をしていました。

「この部署に40代以降で異動してくる多くの方は、若手時代にこの部署を経験しています。
僕は不幸にも、中途半端な地位で、初めてこの部署へ異動して来ました。

まったく仕事が分からず、聞いてもまともに教えてもらえず、
八方ふさがりな状況で、自力で何とかしました。

毎朝、誰よりも早く出社し、過去の資料を片っ端から読み、勉強し、
みんなに認めてもらえるように努力しました……」

この話しを着たとき、私はピンときました。

データ分析の勉強で試してみたら、意外と効果があって驚いた

私のやったことは、先ほどの不幸な40代管理職のやり方の猿真似です。

どのようにやったのかを聞き出し、同じやり方でデータ分析系の案件を片っ端から、再現することをしてみました。

ただただ始発で職場に来て、ただただ過去案件を全く同じように再現してみました。

データ加工も全く同じ、グラフも全く同じ、報告書の文面も構成も全く同じ、何もかも全く同じものを再現しました。

驚くべきことが起こりました。

単に過去案件の資料を眺めていただけでは分からない多くのことを、理解することができたのです。

なぜ、そのようにデータ加工したのか? そのグラフを選んだのか? なぜそのような構成にしたのか?

思わぬところで時間が掛かったり、逆に思ったほど時間のかからないこともありました。

とりあえず、整理することにした

このような自主練をすることで、私は自分のデータ分析スキルをあげていきました。

とりあえず私は、時系列にやったことを整理しました。

時系列に整理したとは、その日にやったことを記録し、データ加工中や分析中のファイルもそのまま残していきました。

失敗したものも、上手くいったものも残しました。例えば、どのようなデータ加工の失敗を犯し、その後、どのようにリカバリーしたのかも残ります。

そのやり方を、本当の分析プロジェクトでも実施するようになりました。それが思わぬ効果を生みます。

自分の分析過程がすべて振り返れるのです。正直、データの記憶容量は膨大なものになりますが、何かあったときに、数日前の状態に戻れるのです。

記録があいまいな数年前の分析案件でも、どのようにデータ分析したのかを、容易に思い出すことができます。
あまり多くの人には話していませんが、これで私は何度か救われました。

一番の自己学習は、ただただ再現することかもしれない

あらゆるデータ分析プロジェクトで、このような日々の記録を残す必要はないかもしれませんが、他人のデータ分析の進め方を辿れるメリットは、教育上非常に大きいのではないかと思います。

データ分析経験の浅い人の多くは、どのようにデータ分析を進めればいいのか、悩むことも多いかもしれません。

その疑似体験をすることが、過去の分析案件を辿ることである程度できます。実際に、手を動かしながら体験することのメリットは計り知れません。

私のように、教育用に作られていない過去の分析案件を再現するのもいいのですが、教育用に作られていると、よりいいのではないかと思います。

このような取り組みで、ある程度のデータ分析のナレッジシェアを実現できると思います。

今回のまとめ

今回は、「属人化を阻止した『データ分析プロジェクトの軌跡の見える化』という地味な活動」というお話しをしました。

前回お話しした「データ活用が上手くいったけど、次に大きな壁があった! データ分析・活用ナレッジの蓄積・共有・継承」というお話しの続きになります。

属人化しやすいデータ分析のナレッジをいかにシェアするのか、という問題に対する次の2つの取り組みの1つを紹介しました。

  • ①データ分析プロジェクトの軌跡の見える化
  • ②失敗事例の蓄積と共有

今回紹介したのは、①の「データ分析プロジェクトの軌跡の見える化」です。

単なる過去のデータ分析を案件を再現するというものです。一部の再現ではなく、すべての再現です。データ加工から分析、グラフ作成、レポート作成などすべてです。

全てをそのまま再現することで、得られることは非常に多いです。

これだけだと、1個人のスキルアップの手段に過ぎません。それを、データ分析人財の教材としてナレッジをシェアできるものに作り替えると、非常にいいのではないか、というお話しをしました。

過去のデータ分析を案件を再現することは、1個人としても自部自身のスキルアップの手段として活用できますし、その再現したものを時系列に整理しなおすことで多くのデータ分析人財のスキルアップ教材としても活用できます。

興味のある方は、一度試してみてください。