第71話|データ活用の火を消さないために、データ分析組織(データサイエンス専門の組織)に求められること

第71話|データ活用の火を消さないために、データ分析組織(データサイエンス専門の組織)に求められること

データ分析組織(データサイエンス専門の組織)を作ったのに、データ分析が根付かない。

情報系や理学系の学生を新卒として採用したり、分析経験のある人を中途採用したり、人財強化したのに、データ分析が根付かない。

データ分析組織(データサイエンス専門の組織)があり人財がいても、根付かないものは根付かない。

データ分析が当たり前のように根付いている組織と、そうでない組織、何が違いがあるのでしょうか?

今回は、「データ活用の火を消さないために、データ分析組織(データサイエンス専門の組織)に求められること」というお話しをします。

多くのデータサイエンス専門の組織に、歴史と伝統が無い

ビッグデータだの、データサイエンスだの、AI(人工知能)だののブーム以前から、データ分析を活かしている組織はありました。私もいくつか知っています。

不思議なことに、私の知っているそのような組織は、あまり表に出てきていない印象があります。「あれっ?」と思うぐらい、表に出てきていません。もちろん表に出てきている組織もありますが。

表に出るとは、新聞や専門誌、データサイエンスに近しい雑誌などに出てくることです。

正直、理由は知りません。あえて表に出して、宣伝する必要性を感じていないのかもしれません。表に出ることがあっても、数年で100名体制にするとか、そういった派手なことをしていません。

ちょっとだけ、私の話しをします。

私が昔所属していた組織も、データ分析を70~80年ぐらい前から実施し、何かしらデータ分析が活用されていました。第二次世界大戦の終戦前からあるため、歴史と伝統は相当なものだと思います。

人財も20代~50代まで、まんべんなく揃っていました。データ分析で迷ったとき、周囲に多くの手本がいて、さらに適切なアドバイスをもらうことも、当然可能でした。そういう意味で、非常に恵まれていました。

そこで私が感じたのは、「データ分析というものはその人のフィロソフィーを色濃く反映する鏡である」ということです。その人の人間性というか生き様が、データ分析ににじみ出てくるのです。

しかし、ブーム前後にできたデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)の場合、設立して長くて10年ぐらいでしょうか…… あまり歴史と伝統がありません。

歴史と伝統があまりないということは、そのデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)で長年データ分析をしてきた人がいないということです。

20~30年以上の経験を持った先輩がいないということは、その歴史と伝統を、その組織に属した人が作っていかなければなりません。

ポジティブにとらえれば、歴史と伝統を作り放題ということにもなります。

しかし、ブームに乗って作ってしまったデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)の場合、その責任者に近い立場の人ほど、悩まされることになります。何をすればよいのかと……

どういった「必要性」があるのか?

自社も、データを使って儲けるぞ! ディープラーニングだ! デジタルトランスフォーメーションだ! それやれ!!!

ブーム以前からあるようなデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)は、何かしらデータ分析の必要性があったからこそ、専門の組織をつくたのでしょう。

例えば、紙媒体の企業が、これからはWebの時代だということで、デジタルマーケティング系のデータ分析人財の強化に取り組み、ある程度の成功を収めたりしています。

例えば、Amazonで頻繁にお買い物していたある社員の発想がもとで、自社のBtoB(法人相手のビジネス)でも行けるのではと思いECサイトを作ったところ、今では大きな収益を上げるようになりました。その大きな収益を上げるために、自社なりに組織的なデータ分析に取り組み、かなりのものになっています。

他にも、データ分析で組織内の課題解決に取り組みある程度成功している組織、重要な意思決定ほどデータ分析を活用すべしとなっている組織、色々あります。

共通しているのは、「必要性」からデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)を作ったということ。ブームだからではなく、「必要性」です。

「必要性」があるということは、そのデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)に必要とされていること、言い換えると「期待されていること」が、ある程度明確になっています。

逆に、明確な「必要性」がないのに、何となくブームに乗ってデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)を作ってしまった場合、何を期待されているのかわからず、迷走することでしょう。

何が期待されているのか?

データサイエンス専門の組織には、何が期待されているのでしょうか?

私が聞いた、ブーム後に設立された幾つかの企業のデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)の悩みは、「もぉそろそろ、何か明確な成果を出さなければ……、事業貢献しなければ……、売上をたてなければ……」というものが多いように感じます。

どんなにデータ分析やデータサイエンス、機械学習系の書籍を読み、研修を受け、コンサルティングを受けても、なかなか思う通りにはいかないようです。

理由は明白で、組織内にデータ分析の小さな成功体験すら無いのです。

ここでいう成功体験とは、リアルに〇〇万円の売上や利益に貢献したという、明確な数字です。

誰かに喜んでもらえたとか、褒められたとか、スゴイと言われたとかではなく、あのデータサイエンス専門の組織のおかげで、売上が○○万円増えた、コストが〇〇%減った、新規顧客獲得のリードタイムが〇〇%短くなった、1社あたりの売上が〇〇%増えた、リカーリングの売上の占める割合が△△%から〇〇%になった、ということです。

データを専門に扱う部署なのですから、自部署の成果も数字で明確に示すべきです。

「データ分析組織(データサイエンス専門の組織)の人たちから数字がたくさん出てくるのに、自分たちのことは数字で示せない」と、思われたら周囲は理解をしてみしてくれないかもしれません。

では、どうする?

少なくとも、企業であれば、データ分析組織(データサイエンス専門の組織)に「期待されていること」は明白です。

それは、「収益」に貢献することです。

これは、データ分析組織(データサイエンス専門の組織)でなくとも、期待されていることです。

データサイエンス専門の組織であれば、さらに「効率性の向上」もしくは「競争力の強化」も求められていることでしょう。

効率性の向上とは、「データ分析によって効率的になった」ということです。費用対効果や生産性の向上といってもよいでしょう。

競争力の強化とは、製品やサービスにデータ分析の技術を付加することで価値を高め、価格を落とすことなく競争力を高めたということです。例えば、検知力向上、分類精度向上、予測精度向上、など統計モデルや、機械学習モデル、最適化モデルを組み込むことで、製品力やサービス力を高めるということです。

何はともあれ、少なくとも「収益」に貢献することがデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)に期待され、それを見える形にすべきです。

つまり、売上か利益かコストかでその成果を示すべきです。利益率でも、稼働率でも、継続率でもよいです。収益と関係の見える数字で示すべきです。

営業やマーケティング系のデータ分析でなくとも、問題ありません。例えば、人事系の新卒採用のデータ分析でも、担当者の働く時間が短くなり生産性が高まれば、理論的には人件費というコストが安くなることを意味します。

データ分析組織(データサイエンス専門の組織)に求められるのは、自分たちの仕事を常に、収益につながる何かで表現することです。できれば、金額換算する習慣を持つことが重要だと思います。

分析しっぱなし、予測モデルの提供しっぱなし、検知モデルの組み込みしっぱなし、ではいけません。

データサイエンス専門の組織は、歴史と伝統が無いほど、自分たちの成果を明確に周囲に宣伝する必要があると思います。

今回のまとめ

今回は、「データ活用の火を消さないために、データ分析組織(データサイエンス専門の組織)に求められること」というお話しをしました。

歴史と伝統のあるデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)であれば、周辺組織とのやり取り、経験のある人財、そして何よりも「期待されていること」がある程度は明確なっています。

しかし、ビッグデータだの、データサイエンスだの、AI(人工知能)だののブーム前後に設立されたデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)だと、周辺組織とのやり取りは手探りで、経験のある人財は少なく中途で外から採用するしかなく、そして何よりも「期待されていること」が不明瞭だったりします。

「期待されていること」が不明瞭の中、成果を出せと言われても、思うように成果を出すことは難しいでしょう。下手すると、たいした成果を出すことなく、組織が消えてなくなります。

よくよく考えてみれば、データ分析組織(データサイエンス専門の組織)に求められていることは、営利企業であれば明白です。

その企業の「収益」に貢献すればよいのです。できれば、データを活用し効率的になったり、競争力が強化されたりすれば、非常に喜ばれることでしょう。

そのためには、必要なことがあります。それは常に、自分たちの成果を金額換算する習慣をつけるということです。金額でなくとも、明確な数字で示すべきです。

成果が数字で示せると、データ分析組織(データサイエンス専門の組織)の価値も目に見えて、周囲に理解されやすいでしょう。

少なくとも、「あの部署の人たちは、いったい何をしているのか?」と怪しまれなくなることでしょう。

データ分析組織(データサイエンス専門の組織)を作ったものの、周囲から理解してもらえない、成果が見えにくいと言われた、自分たちのやっていることに自信を持てない、などというお悩みがありましたら、ぜひ一度やっていることを金額換算してみてください。

金額換算することで、事業貢献できるデータ分析とそうでないデータ分析が、明確に分かることもあり、データ分析のリソース配分に活かせる場合もあります。

これからデータ分析組織(データサイエンス専門の組織)を作る場合には、このような金額換算する習慣をつける取り組みを実施すると、良いのではないかと思います。