第425話|在庫管理のちょうどいいを探して- 需要予測の基本から在庫管理まで

第425話|在庫管理のちょうどいいを探して- 需要予測の基本から在庫管理まで

こんな経験はありませんか?

スーパーで買おうと思った商品が品切れしていたときのがっかり感や、割引シールの商品を見たときの複雑な気持ち。

このような経験は、在庫管理というビジネスの重要課題に深く関係しています。

たとえば、「売れるだろう」と予測して仕入れた商品が余ったり、「こんなに需要があるとは」と予想外の品切れが発生したり……。

在庫管理の難しさは、小規模店舗からグローバル企業まで、あらゆるビジネスが直面する永遠の課題といえます。

しかし、近年のテクノロジーの進化により、在庫管理の最適化に新たなアプローチが可能となりました。

POSデータの分析からAIによる需要予測まで、これまで大企業のみが利用可能だった高度な在庫管理が、いまや小規模店舗でも活用できるようになっています。

「売れすぎても困る、売れなさすぎても困る」というジレンマを抱える全てのビジネスパーソンに、在庫管理の基本的な考え方から最新のテクノロジーの活用方法まで、ざっくりと実例を交えながら解説していきます。

Contents

なぜ在庫管理が重要なのか

 おにぎりから見る在庫管理の難しさ

コンビニで「おにぎりを買おう」と思ったら、品切れで買えなかった経験はありませんか?

特にお昼時になると、この品切れが起きやすいお店もあります。これは「在庫管理」がうまくいっていない例のひとつです。

一方で、売れ残ったおにぎりは一定時間がたつと廃棄しなければいけません。

お店にとっては損失になるうえ、食品ロスにもつながります。

こうした「品切れを起こしたくないけれど、余りすぎても困る」という状況は、多くの店舗が直面するジレンマです。

 おにぎりの数をいくつ仕入れる?

たとえば、お昼時に1日10個のおにぎりが売れるかもしれないと想定して、何個仕入れるかを考えてみましょう。

8個だけ仕入れた場合

  • 本当に10個必要だったら、2個分は売り逃してしまいます(機会損失)。
  • 逆に、実際は6個しか売れなかったら、2個は余って廃棄しなければならないかもしれません。

12個仕入れた場合

  • 10個売れても2個は余る(廃棄リスク)。
  • 8個しか売れなかったら4個余ってしまい、損失が大きくなります。

多めに仕入れれば「品切れ」は減らせそうですが、売れなかった分は廃棄という損失に。

少なく仕入れれば廃棄は減らせますが、品切れでお客さんを逃してしまう可能性が。

このバランスをとるのは、意外と難しいのです。

 在庫管理がもっと複雑になる理由

おにぎりの販売数は、以下のようなさまざまな要素で変わります。

  • 季節や天気:暑い日はあっさり系が売れる、寒い日はガッツリ系が売れる
  • 時間帯:朝は定番の鮭、昼は種類の豊富なものが人気、など
  • 近くの競合店のセール:隣の店が安売りしていれば、そちらにお客さんが流れるかもしれません
  • イベントや工事:地域のお祭りや、近所で工事が始まると、急に需要が増えたり減ったりする

こうした要素が重なり合うため、単純に「前の日の売れ行きだけ」を見て予測するのは難しくなります。

 データを活用してリスクを減らす

これらの複雑な要素を考慮するには、「経験や勘」だけでなく、POSデータ(どの商品が、いつ、どれだけ売れたか)などを分析するのが有効です。

天気予報や地域のイベント情報など、いろいろなデータを組み合わせることで、売れ行きを予想しやすくなります。

たとえば、

  • 「気温が高い日は○○が売れやすい」
  • 「近くでお祭りがある日は夕方以降にお弁当類が伸びる」

といった傾向がわかれば、仕入れの個数をもう少し正確に調整しやすくなります。

需要を予測するということ

「明日、どの商品がどれくらい売れるだろう?」

在庫管理では、こうした「需要の予測」がとても大切です。売れる数を見誤ると、品切れや廃棄につながってしまうからです。

 季節や行事を考える

街の小さな花屋「フラワーコーナーよしだ」の吉田さんは、30年以上の経験から「季節の行事」に注目しています。

  • 2月(バレンタインデー):赤いバラの需要が急に増える
  • 3月(卒業シーズン):ピンクや白い花がよく売れる
  • 5月(母の日):カーネーションが一気に売れる
  • 12月(クリスマス):リースやポインセチアに人気が集まる

このように、季節や特定の日(行事)が需要を大きく変えます。さらに最近は気候が変化してきており、例年と同じパターンが当てはまらないこともあるので注意が必要です。

 時間帯による変化を読む

レストラン「キッチンサンライズ」の店長・鈴木さんは、時間帯によるお客さんの動きに着目しています。

  • 朝(7〜9時):出勤前にさっと食べる人が多い
  • 昼(11時半〜14時):いわゆる「ランチタイム」で混雑がピーク
  • 夕方(17時半〜20時):仕事帰りに立ち寄る人が増える

天気が悪い日は朝の来客数が減る、金曜日は夕方以降の来客数が増える…といった傾向も見えてきます。こうした「時間+曜日+天候」の組み合わせを押さえると、仕入れや準備の精度が上がります。

 外部の影響を考える

需要は、そのお店の中だけではなく、外の状況にも左右されます。

  • 天候:暑い日に冷たい飲み物が売れたり、台風で買いだめする人が増えたり
  • イベント:近所でコンサートやお祭りがあると急に売上が伸びる
  • 経済状況:給料日後に高めの商品が売れたり、増税前にまとめ買いされることがある

こうした外部要因を頭に入れておくと、予測の精度がぐっと上がります。

 需要予測の方法

需要を予測するには、大きく分けて以下のアプローチがあります。

定性的(経験や勘)

  • 店長の経験や、常連さんとの会話を通じて「なんとなく今年は需要が高まりそう」といった感覚で判断する方法
  • 小規模な店舗では今でも大切。ただし、データの裏付けがあると、より確実性が増します。

定量的(数字やデータ)

  • 過去の販売実績など、数字を分析して需要の傾向を把握する方法
  • たとえば「昨年の同じ月と比べて売上が何%増えたか」などを見ながら予測します。

両方を組み合わせる(ハイブリッド)

  • 統計的な数字をベースにしつつ、実際の現場の声を加えて最終判断をする方法
  • 現代ではこの「数字+現場の感覚」の組み合わせが効果的と言われます。

 予測精度を高めるポイント

データの質を高める

できるだけ正確な販売数や売切れの時間、値引きした商品の売れ行きなども記録しておきます。

複数の要因を考慮する

「天気が良い平日の昼」「雨の金曜日の夕方」など、条件を掛け合わせて考えるとより正確です。

予測と結果を比べる

もし予測が外れたら「なぜそうなったか」を分析し、次に役立てます。地道に修正を重ねるほど、精度は高まります。

データを活用した需要予測の基礎

ここからは、もう少し具体的に「データ分析」を使った需要予測の方法を見ていきましょう。

「分析」と聞くと難しそうですが、基本を押さえるだけで、だいぶ違った視点が得られます。

 POSデータって何?

「POSデータ」とは、レジを通したときに記録される販売情報のことです。

  • どんな商品が
  • 何時に
  • いくつ
  • いくらで売れたか

といった情報が残ります。このデータを整理して見てみると、時間帯や値段の変化による売れ方の違いがわかり、在庫を予測するうえでとても役立ちます。

  POSデータでわかること

売れた時刻

何時ごろに売れたかを見ると、「朝方にパンが集中して売れている」などの時間帯特性が見えてきます。

価格や値引きの影響

定価で売ったときと値引きしたときで、どれくらい売れ方が違うかがわかります。

品切れ情報

いつ在庫がゼロになったかがわかれば、実は「もっと売れたかもしれないのに売れなかった」という可能性(機会損失)がわかります。

 シンプルな移動平均でトレンドをつかむ

需要予測の中でも、最もかんたんな方法のひとつが「移動平均」です。

最近の数日分の販売数を平均して、明日や来週の需要をざっくりと予想します。

たとえば、

  • 月:80個
  • 火:75個
  • 水:85個
  • 木:70個
  • 金:90個

と売れた場合、3日間の平均を取ると、

  • 月・火・水の平均:(80+75+85)÷3 = 80個
  • 火・水・木の平均:(75+85+70)÷3 = 76.7個
  • 水・木・金の平均:(85+70+90)÷3 = 81.7個

これによって「だいたい1日80個前後売れそう」とわかります。

ただし、移動平均はあくまで「最近の傾向」を見る手段なので、急な天候の変化やイベントなどには対応しにくい面があります。

 季節指数で季節の変動を数字にする

「季節指数」とは、「1年の中でいつ売れやすいか」を数字で表したものです。

たとえば、アイスクリームなら夏に売れやすいですよね。その「夏は何倍くらい売れるのか」を数値化したのが季節指数です。

  • 年間平均の売上が1000個だとして、7月は1500個売れるとしたら、7月の季節指数は1.5(=1500÷1000)になります。
  • 逆に、冬の1月が500個なら、1月の指数は0.5(=500÷1000)です。

こうして季節ごとの特徴を数字で示すと、「夏はいつもの1.5倍仕入れよう」などと考えやすくなります。

 データの質を高めるコツ

異常値のチェック

台風や特大セールなど、普通とは違う出来事で売上が大きく変わった日は、予測計算からは外して考える場合もあります。

欠損値の扱い

データが記録されていない日があれば、前後の数値を参考にしたりして補います。ただし「補ったデータ」であることをメモしておきましょう。

データをできるだけ長い期間集める

1〜2週間だけだと偏りが大きく、1年分くらいあると季節の流れもわかります。

 予測したら結果と比べよう

「昨日の予測」と「実際の売上」を比べて誤差(どれだけ外れたか)を確認することも大事です。

  • 大きく外れたら、何が原因だったのかを考え、次の予測に生かします。
  • これを繰り返すことで、だんだん予測の精度は上がっていきます。

在庫管理の実務のポイント

「在庫がどれだけ必要か予測する」だけではなく、実際にどのタイミングで何をどれだけ仕入れるか、また余分に在庫を持つかどうかなど、具体的に考えることが「在庫管理の実務」です。

 発注点方式とは?

たとえば、ペットボトル飲料が1日に平均50本売れ、商品を発注してから届くまで2日かかるとします。

「在庫がどのくらい減ったら発注する?」という基準を決めておくのが「発注点方式」です。

  発注点の考え方

  • 1日平均50本 × リードタイム2日 = 100本
  • ここに「安全在庫」(急な売れ行き増に備えて少し余分に持つ分)を足します。

もし安全在庫を30本に設定するなら、

発注点=100+30=130 (本)

在庫が130本以下になったら「そろそろ注文しよう」というルールです。

 安全在庫はどれくらい持つ?

需要は日によって変動するので、平均より多めに必要なときもあれば少なめの日もあります。

そのズレに備えるために持つのが「安全在庫」です。

  • 品切れするとお客さんを逃してしまう
  • だからといって持ちすぎると余らせるリスクが増える

どのくらい余裕を持つかは、お店によって違います。

たとえば「品切れは絶対避けたい」ときは多めに持つでしょうし、「多少品切れしても廃棄を減らしたい」ときは少なめにすることもあります。

 リードタイムが長いときの注意

リードタイムとは「発注してから商品が届くまでの期間や時間」のことです。

たとえば海外から仕入れる場合、数日〜数週間かかることもあります。リードタイムが長いときは……

  • その間に売れるかもしれない量をしっかり見積もる
  • 渋滞や天候不良で遅れる可能性があるなら、そのリスクも考慮して在庫を多めに持つ
    などの対策が必要です。

 どれだけ発注する?(経済的発注量)

「1回の注文につき手数料や送料がかかるから、なるべくまとめて発注したい」と思う一方で、「在庫を持ちすぎると保管場所が狭くなったり、在庫リスクが高まる」という問題もあります。

そこで「発注の手間」と「在庫を持つリスク」を両方考えて、最適な発注量を計算する方法が「経済的発注量(EOQ)」です。

具体的な計算式もありますが、要は「注文費用」と「在庫を持つ費用」のバランスを取る考え方です。

実務では最小ロット(取引先が定める“最低○個以上”など)や倉庫の広さ、商品によって賞味期限があるかどうかなども合わせて考えます。

 在庫管理で押さえておきたい日々のポイント

1日の終わりに在庫チェック

実際の在庫とシステム上の在庫が合っているかを確認。紛失や破損がないかも確かめます。

発注点の見直し

予想より多く売れた、または全然売れなかった場合は、発注点や安全在庫を調整します。

週に一度は「売れ残り」と「死に筋」をチェック

全然売れていない商品がないか確認し、値下げや陳列変更、仕入れ数の削減を検討します。

月に一度は在庫金額を確認

「どのカテゴリーにお金をかけすぎているか」「在庫回転率(在庫の入れ替わる速度)はどうか」などを見直して、販売促進や仕入れ調整につなげます。

DX時代の在庫管理

最近は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉をよく耳にします。

これは、AI(人工知能)やビッグデータなどの先端技術を活用して、ビジネス全体を変えていこうとする動きのことです。

実は在庫管理の世界でも、このDXによって大きな変化が起きています。

 AI・機械学習で需要を予測する

従来の予測は「過去の売上データ+ちょっとした勘」に頼ることが多かったですが、AIを使うともっと多くの情報を一度に考慮できます。

たとえば……

  • 過去の販売実績
  • 天気や気温
  • SNSのトレンド(どんな商品が話題か)
  • イベント情報(ライブや祭りなど)

こうしたデータをまとめてAIに学習させると、「気温が○度以上で週末にイベントがあるとき、商品Aが普段より◯%多く売れる」というような複雑な予測が可能になります。

 自動発注システムのメリット・デメリット

最近は、在庫数が基準より減ったらシステムが自動で発注してくれる仕組みも増えています。

メリット

ヒューマンエラー(発注忘れ・数え間違い)が減る、店長やスタッフの負担が減る、など

デメリット

導入コストがかかる、システムがうまく学習するまで調整が必要、急なイベント対応には人の判断が要る、など

 人間の判断が必要な場面

AIや自動システムが発達しても、すべてを任せられるわけではありません。

たとえば……

  • 新商品や季節限定商品:まだデータが少ないのでAIがうまく予測できない
  • 地域特有の祭りや習慣:システムが知らない行事には店長の経験が頼りになる
  • 異常気象や災害:大雪や台風など想定外の事態が起きたときは、臨機応変な判断が必要

 最新テクノロジーの活用例

電子棚札

値段を自動で変更できる表示システムを使い、需要が高まるときだけ少し値上げするなど「ダイナミックプライシング」を導入している店もあります。

画像認識

カメラで棚の在庫状況をAIが把握し、自動的に欠品を検知する仕組みも登場しています。

 デジタル化を進めるときのポイント

小さく始める

一部の店舗や商品カテゴリーからテスト的に導入し、いきなり全面導入しない

データの質を高める

入力ミスや記録漏れがあると、システムの精度も落ちてしまう

スタッフ教育

新しいシステムを使いこなすための研修やサポートが欠かせません

明日からできる在庫管理の改善

ここまで「在庫管理」や「需要予測」の話をしてきましたが、「じゃあ具体的に何から始めればいいの?」と思われるかもしれません。

すぐに取り組める改善方法や、日々の業務で意識したいポイントをご紹介します。

 在庫回転率をチェックしよう

在庫回転率とは、「在庫がどれだけ早いペースで売れているか」を数字で表したものです。

  • 計算方法(簡易版):年間の売上個数(または売上金額) ÷ 平均在庫個数(または在庫金額)
  • 数字が大きいほど「頻繁に売れて、在庫が停滞していない」ということになります。

たとえば、ある商品が1年間で1,200個売れていて、平均的に100個在庫を持っていたなら、1,200 ÷ 100 = 12回転/年。月に1回くらいは在庫が入れ替わっている計算です。

回転率が極端に低い商品は、「在庫を持ちすぎている=売れ残り」かもしれないので、値下げや陳列変更を検討しましょう。

 死に筋商品を見つけよう

「ほとんど売れないまま、ずっと残っている商品」を「死に筋商品」と言います。

  • 売り場を圧迫するうえに、商品によっては劣化や賞味期限切れのリスクもあります。
  • まずはどれが死に筋なのかをリストアップし、値下げや販促、仕入れ停止などの対策を考えましょう。

 小さくデータを取り始めよう

AIや専門システムを導入する前に、エクセルや手書きのメモなどで構わないので、まずは「1日の売上数・天気・イベントの有無」を記録し始めましょう。

  • 「雨の日はいつもより何%売上が下がったか」
  • 「近くでイベントがあった日は夕方に売上が伸びたか」

といった「ちょっとした気づき」でも、積み重なると役立つ情報になります。

 日々の業務で意識したいポイント

朝の在庫確認

品切れになりそうな商品はないか。棚やショーケースを一通り見て、補充や発注が必要か考えます。

夕方の売上振り返り

その日の売上数を簡単にメモし、「予想と比べてどうだったか」を確認。大きくズレた場合は原因をざっくりでも書き留めます。

週次・月次の棚卸し

在庫が理論上と合っているかチェック。万が一差があれば破損や紛失、発注ミスなどがなかったか調べましょう。

 改善のステップを回す

  1. 現状把握:どんな商品がよく売れて、どんな商品が売れていないかをまず確認。
  2. 問題発見:売れ筋や死に筋を見極め、何が課題か明確にする。
  3. 対策実行:発注点の見直し、値下げや販促、新商品の導入などを試してみる。
  4. 効果測定:週や月の売上・在庫を比べ、改善しているか確認。
  5. 再検討:うまくいかなかった点を修正し、また次の対策へ。

このサイクルを地道に回していくことで、少しずつ在庫管理がうまく回りはじめます。

今回のまとめ

今回は。「在庫管理の”ちょうどいい”を探して 〜需要予測の基本から在庫管理まで〜」というお話しをしました。

在庫管理の改善は、一朝一夕には実現できません。

しかし、今回説明したような基本的な方法を一つずつ実践していくことで、確実に成果を上げることができます。

大切なのは、できることから着実に始めることです。皆様の在庫管理改善の取り組みが実を結ぶことを願っています。