第272話|マーケティング活動を評価するための「ベース販売高」と「販促増分販売高」

第272話|マーケティング活動を評価するための「ベース販売高」と「販促増分販売高」

キャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を適切に評価するには、ベース販売高を見積もる必要があります。

ベース販売高とは、短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動によらない販売高です。

短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動による販売高を、販促増分販売高といいます。

販売高 = ベース販売高 + 販促増分販売高

 

短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を評価するときに、まず実施すべきはこの分解です。

今回は、「マーケティング活動を評価するための『ベース販売高』と『販促増分販売高』」というお話しをします。

たまに見る間違い

短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を評価するとき、たまに見る間違いがあります。

それは、全体の販売高をキャンペーンや広告宣伝などのマーケティングコストで割って、評価することです。

(よろしくない例) 全体の販売高 ÷ マーケティングコスト

 

これでは、短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を評価はできません。

なぜならば、ベース販売高が高い商品やサービスであれば、どのようなマーケティング活動を実施しても好成績な値が弾き出されます。逆に、ベース販売高が低い商品やサービスであれば、どのようなマーケティング活動を実施しても悪い値が弾き出されます。

多くの場合、販売高には季節性があり、この季節性はベース販売高に含まれます。夏売れる商品やサービスは、ベース販売高は高くなり、この計算方法だと好成績な値が弾き出されます。

そのため、短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動によらない販売高であるベース販売高を、何かしらの手段を通じて見積もっておく必要があります。

販売上昇率

何かしらの手段を通じて、販売高を以下のように分解できたとします。

販売高 = ベース販売高 + 販促増分販売高

 

このとき最初に見るべきは、販売上昇率です。

販売上昇率 = 販促増分販売高 ÷ ベース販売高

要は、ベース販売高を基準に、どれだけ販売高を短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動で上昇させたか、という指標です。

販促増分販売高をさらに分解する

ここまで、販促増分販売高1つの塊として表記してきました。

もちろん、1つの塊として考えて評価するのもいいですが、データ分析をするときは、さらに分解したほうがいいでしょう。

例えば、広告宣伝消費者向け販促流通向け販促などに分けたりします。

販促増分販売高
= 広告宣伝による増分販売高
+ 消費者向け販促による増分販売高
+ 流通向け販促による増分販売高

 

さらに、広告宣伝による増分販売高をテレビCMや新聞広告、ネット広告などにさらに細分化したり、消費者向け販促による増分販売高をクーポンや会員限定値引き、ポイント2倍キャンペーンなどにさらに細分化したりします。

どこまで細分化するのかは、どのくらいの粒度の情報が現場で求められているのか、そもそもデータがどのくらいの粒度で存在するのかに依存します。

細分化したら、例えば以下のように、細分化した粒度で販売上昇率を計算することができます。

テレビCMによる販売上昇率 = テレビCMの販促増分販売高 ÷ ベース販売高

 

増分販売高あたりコスト

販促増分販売高販売上昇率などが高いからといって、良い販促手段とは限りません。コストパフォーマンスも重要です。

増分販売高あたりコスト = 増分販売高に要したコスト ÷ 販促増分販売高

 

こちらも、販促増分販売高を1つの塊として表記していますが、データ分析をするときは、さらに分解するのが一般的です。

以下は、テレビCMの例です。

テレビCMの増分販売高あたりコスト = テレビCM増分販売高に要したコスト ÷ テレビCM増分販売高

 

加法アプローチと乗法アプローチ

では、具体的にベース販売高販促増分販売高をどのように見積もるのか?

一番簡単なのは、線形回帰モデルをベースにモデル構築する方法です。そのモデルは、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)と呼ばれることが多いです。

MMMには、ざっくり加法アプローチ乗法アプローチ2アプローチのモデルがあります。

以下、加法アプローチのモデリング例です。

販売高
= ベース販売高
+ 広告宣伝の販促増分販売高
+ 消費者向け販促の販促増分販売高
+ 流通向け販促の販促増分販売高

 

もしくは、以下のようにも表現できます。

販売高
= ベース販売高
+ ベース販売高 × 広告宣伝による販売上昇率
+ ベース販売高 × 消費者向け販促による販売上昇率
+ ベース販売高 × 流通向け販促による販売上昇率

 

以下、乗法アプローチのモデリング例です。

販売高
= ベース販売高
× (1 + 広告宣伝による販売上昇率)
× (1 + 消費者向け販促による販売上昇率)
× (1 + 流通向け販促による販売上昇率)

 

対数変換(log)して、以下のようにも表現できます。

log(販売高)
= log(ベース販売高)
+ log(1 + 広告宣伝による販売上昇率)
+ log(1 + 消費者向け販促による販売上昇率)
+ log(1 + 流通向け販促による販売上昇率)

 

数理モデル

ここで1点注意点があります。

それは、MMMは、説明変数同士の相関が非常に高くなる傾向があるため、単純な線形回帰モデルだとマルチコという問題が起こるケースが多いです。

そもそも、なぜ説明変数同士の相関が非常に高くなる傾向があるかというと、多くの企業では、キャンペーン期間と称し同時期に色々な広告や販促手段を用いるからです。

そのため、MMMの数理モデルを構築するとき、マルチコを緩和するモデルが用いられます。

例えば……

  • 正則化回帰モデル(Ridge回帰やElastic Net)
  • 主成分回帰モデル
  • 部分的最小二乗回帰モデル
  • 階層線形回帰モデル

……など。

他にも、顧客行動を組み込んだ共分散構造モデルや、ネステッドロジットモデルなど、色々なものがあります。

さらに、SARIMAX(説明変数X付き季節性を考慮したARIMAモデル)といった時系列解析系のモデルもあります。

この中で最もシンプルなのが正則化回帰モデル(Ridge回帰やElastic Net)です。

通常の線形回帰モデルで構築するのと大差ないと思います。ただ、線形回帰も正則化回帰も、時系列成分(季節性や周期性など)を説明変数として組み込む必要があります。

販売高の予測精度が高いのは、私の経験上、SARIMAXです。

SARIMAX の場合、時系列成分(季節性や周期性など)は組み込まれた状態になっています。ただ、通常のSARIMAXのXの部分は正則化されていないので、正則化を絡めたほうがいいです。

正則化を絡め方が分からないという方は、先ずSARIMAモデル(説明変数Xを考慮しないモデル)を構築し、次にSARIMAモデルの残差を正則化回帰モデル(Ridge回帰やElastic Net)でモデリングするといいでしょう。これは、正則化regSARIMAモデルと呼ばれています。

今回のまとめ

今回は、「マーケティング活動を評価するための『ベース販売高』と『販促増分販売高』」というお話しをしました。

キャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を適切に評価するには、ベース販売高を見積もる必要があります。

ベース販売高とは、短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動によらない販売高です。

短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動による販売高を、販促増分販売高といいます。

販売高 = ベース販売高 + 販促増分販売高

 

短期的なキャンペーンや広告宣伝などのマーケティング活動を評価するときに、まず実施すべきはこの分解です。

分解したら、以下の2つの指標を深堀分析することが多いいです。

  • 販売上昇率 = 販促増分販売高 ÷ ベース販売高
  • 増分販売高あたりコスト = 増分販売高に要したコスト ÷ 増分販売高

実務的には、販促増分販売高を1つの塊としてだけでなく、さらに分解するのが一般的です。例えば、媒体別やエリア別など。

ここで肝になるのが、ベース販売高販促増分販売高見積もる方法です。

一番簡単なのは、線形回帰モデルをベースにモデル構築する方法です。そのモデルは、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)と呼ばれることが多いです。

MMMには、ざっくり加法アプローチ乗法アプローチ2アプローチのモデルがあります。

利用できる数理モデルはいくつかあります。

  • 線形回帰モデル
  • 正則化回帰モデル(Ridge回帰やElastic Net)
  • 主成分回帰モデル
  • 部分的最小二乗回帰モデル
  • 階層線形回帰モデル
  • 共分散構造モデル
  • ネステッドロジットモデル
  • SARIMAX

実務的には、正則化回帰モデルSARIMAXが良いかと思いますので、興味のある方は試してみてください。

データを使ったモデリング例は、別の機会にお話しします。